コーダ あいのうた (原題:CODA)

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監督・脚本:シアン・ヘダー 
出演:エミリア・ジョーンズ「ロック&キー」、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ『シング・ストリート』、マーリー・マトリン『愛は静けさの中に』 

とある海辺の町。耳の不自由な家族の中で唯一耳が聞こえる女子高生のルビー(エミリア・ジョーンズ)は、幼少期からさまざまな場面で家族のコミュニケーションを手助けし、家業の漁業も毎日手伝っていた。新学期、彼女はひそかに憧れる同級生のマイルズと同じ合唱クラブに入り、顧問の教師から歌の才能を見いだされる。名門音楽大学の受験を勧められるルビーだったが、彼女の歌声が聞こえない両親から反対されてしまう。ルビーは夢を追うよりも家族を支えることを決めるが、あるとき父が思いがけず娘の才能に気付く。

原題の「CODA(Children of Deaf Adults)」とは、“⽿の聴こえない両親に育てられた⼦どもを指す。⾳楽⽤語としては、楽曲や楽章の締めや新たな章の始まりの意味もあり、歌を通し、新たに旅立つヒロインに相応しい題名といえよう。

フランス映画「エール!」(2015 年)のハリウッドリメイク版。オリジナル版よりも家庭の深刻な困窮状況、家族との軋轢、ヒロイン・ルビーが抱く葛藤などが中心に描かれる。昨今、日本でも顕在化してきた”ヤングケアラー”の問題を彷彿とさせた。シアン・ヘダー監督は、
「CODAと話して分かったことは、彼らは親に伝達しなければならない状況に追い込まれたことで、あっという間に人一倍多くの大人の事情に身を置いてしまうの」
と語っている。本作にも、両親の病院受診や漁業組合会議などに通訳として付き添う場面がある。それが当然の役目とされているルビーは、家庭に於ける社会との唯一の接点・窓口なのだ。

父と同じ漁師で聾唖の兄は、音大への進学を諦め、乗船すると決意したルビーに、「家族の犠牲になるな!お前は歌が上手いと聞いたぞ。 卑屈になるな」と励ます。親の苦しさも、歳が近い妹の気持ちも分かる触媒のような役割を果たす。兄の存在は隠れたキーパーソンとして機能している。

ヘダー監督は、兄、両親とも聾唖の俳優を起用する点に拘った。この方針は大きな成果を伴った。手話や身体表現も重要だが、強い意思を放つ眼差し、顔筋の動かし方が、やはり健聴者とは異なるのだ。母役のマーリー・マトリンは『愛は静けさの中に』のオスカー⼥優として知る人は多いだろう。父、兄役の2人もプロの俳優である。俳優の生業を立てて行ける米国演劇界の多様性が窺い知れる。

高音域が出ることを音楽教師に偶然、見出されて合唱の道へ進むオリジナル版に対し、本作のルビーは最初から歌が好き♪家業のトロール漁を行う冒頭場面から、船上にはゴスペルが流れ、ルビーの明るく力強い歌声がカモメの鳴き声と響き合う。監督が幼少期を過ごしたというマサチューセッツ州付近の大海原や周辺の埠頭での活気が、本作を息づかせている。

手話をこなし、魅力的な声を持ち、漁もする!複雑な内面を表現する難役に挑戦した若き英国人エミリア・ジョーンズは、監督らの期待に応えた好演を見せた。家族3人がルビーの歌声を初めて”聴いた”時の想いを伝える熱唱ジョニ・ミッチェル「青春の光と影」は、感動必至だ。
楽曲でいえば、マーヴィン・ゲイ「Let's Get It On」、ザ・クラッシュ「I Fought the Law」が効果的に使われるので、お聴き逃しないよう♪

ルビーが自転車で走り抜ける漁村の街並み、岩辺の湖(日本なら埼玉県の長瀞?)、緑や花々に彩られた自然描写が美しい。撮影監督は、寺島しのぶ主演の映画『オー・ルーシー! Oh Lucy!』のカメラマン、パウラ・ウイドブロである。ちなみに、ルビーのデュエット相手で湖に飛び込むマイルズには、『シング・ストリート 未来へのうた』に主演したフェルディア・ウォルシュ=ピーロが扮する。
ロンドンとダブリン出身のライジングスター2人が爽やかな印象を残す快作だ。
(大瀧幸恵)


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2021年|アメリカ|カラー|ビスタ|5.1chデジタル|112分|PG12 
配給:ギャガ GAGA★
(C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS 
公式サイト:https://gaga.ne.jp/coda
★2022年1月21日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開


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