ライダーズ・オブ・ジャスティス (原題:RETFÆRDIGHEDENS RYTTERE 英題:RIDERS OF JUSTICE )

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監督・脚本:アナス・トマス・イェンセン 
撮影:キャスパー・トゥクセン 
音楽:イエッペ・コース
出演:マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コース、アンドレア・ハイク・ガデベルグ、ラース・ブリグマン、ニコラス・ブロ、グスタフ・リンド、ローラン・ムラ

アフガニスタンで任務に就いていた軍人マークスは、妻が列車事故で亡くなったという報せを受けて急きょ帰国する。娘と共に悲しみに暮れる彼の前に現れた数学者のオットーらは、事故は犯罪組織“ライダーズ・オブ・ジャスティス”が殺人事件の重要な証人を葬るために起こしたものだと告げる。怒りに燃えたマークスは、オットーたちの協力を得ながら復讐を誓うが、事態は予想していなかった方向に進む。

米国映画や戦争映画以外でこれほど銃撃戦が展開され、暴力描写も多い作品は珍しい。なのに、全編を通して多幸感に包まれる不思議な映画だ。さすがは、脚本家出身のアナス・トマス・イェンセン監督。先の予想がつかず、さりとて作為性もない。一筋縄ではいかぬ構成力とユーモアセンス、シリアスで重い主題を扱いながら、心穏やかにさせてくれる見事な脚本に脱帽だ!

マッツ・ミケルセン主演作としては、本作と『アナザーラウンド』ともハリウッドリメイクが決定しているというのも納得。どちらもマッツ・ミケルセンに主演してほしいところだが、深淵且つ笑えるデンマーク映画の系譜をどうハリウッド流アレンジを加えるかが興味深い。タッグを組むことが多かったイェンセン監督とマッツ・ミケルセン。本作でも分かるように、ミケルセンの持ち味や魅力を知り尽くしている監督だからこそ醸し出される空気感、安定感は得難いものだ。

粗暴な職業軍人のマッツと、統計学や顔認証スキルに長けたズッコケ親父3人組。およそ結びつかないおじさんたちが繰り広げるオフビートな復讐劇。それに普遍的な親子の確執、神の存在、物ごとは偶然に起きるのか?確率論で予想できるのか?回避は可能なのか?といった重層的な問いが投下される。
これ1本で何作も作れるのでは?と思える程、多方面に渡る主題を孕んだ映画は、楽しく観終わるだけに収まらない。暫し、熟考することを促す貴重な体験を齎せてくれるのだ。しかも、後味は心温まり心地好い余韻が残るときては、イェンセン監督の設計図には感服せざるを得ない。

脚本の技巧だけではなく、暴力描写に流れる賛美歌の透明な響き、クリスマスシーズンの華やぎ、ホルン吹奏による「リトルドラマーボーイ」の効果や、思い切った暗闇が支配する中での緊迫した銃撃戦、細心のライティングが施された納屋の映像など、スタッフワークが活きた仕事を見せてくれる。

ズッコケおじさんたちに、TVシリーズ『特捜部Q』のニコライ・リー・コース、本作でデンマークのオスカーとも言うべきロバート賞の助演男優賞を受賞したラーシュ・ブリグマン(のっけから笑かしてくれます!)、『アダムズ・アップル』のニコラス・ブロら、デンマークが誇る名優たちが集結しているのも嬉しい。
心が壊れた時、虚勢を張って強がるのか、誰かを責めるのか、助けを求めるのか……。名優たちがそれぞれに掘り下げた内心描写には胸を強く打たれた。デンマーク映画の底力を堪能できる一作。お見逃しなく!
(大瀧幸恵)


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2020年|デンマーク・スウェーデン・フィンランド|カラー|シネスコ|5.1ch|116分|デンマーク語ほか|PG12|
配給:クロックワークス 
© 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.  
公式サイト:https://klockworx-v.com/roj/
★2022年1月21日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

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