ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ (原題:Rockfield:The Studio on the Farm)

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監督:ハンナ・ベリーマン
撮影:パトリック・スミス
編集:ルパート・ハウスマン
音楽:アレクサンダー・パーソンズ
出演:キングズリー・ウォード、チャールズ・ウォード、オジー・オズボーン、ロバート・プラント、リアム・ギャラガー、クリス・マーティン、ティム・バージェス、ジム・カー

50年以上前のウェールズ。音楽好きの兄弟キングズリー、チャールズ・ウォード兄弟は、家業の酪農場を引き継ぐ。エルヴィス・プレスリーに夢中だった彼らは、農業の仕事をしながら屋敷の屋根裏に録音機材を設置し、友人たちとの使用を目的にしたレコーディングスタジオを作る。やがて空き部屋を宿泊施設に改修したことで、図らずもスタジオは宿泊可能な滞在型音楽スタジオとなる。そのうわさを聞きつけたミュージシャンやバンドが次々と訪れ、後に世界を席巻するアルバムや楽曲が生み出される。

50年前のブリティッシュ・ロックシーンに遡れる映画がやってきた!懐古趣味と言われたって構うものか!往年のファンには懐かし過ぎるアーカイブ映像、若かりし頃のヒット曲に目頭を熱くし、楽しい逸話の数々は頬を緩ませてくれる。そんな至福の時が詰まった96分である♪

のっけからカチンコが鳴り、ブラック・サバスのオジー・オズボーンが語り出す。あぁ、まったくオジーときたら……(笑)。おじいさんとなってもオジーはオジーだ。だが、貴重な50年に及ぶロックフィールド愛が最も伝わるのはオジーの言葉だった。初めてウェールズ郊外にあるモンマスの農場へ飛行機で向かうオジー。

キングズリーとチャールズのウォード兄弟は、両親が1958年から営む農場で、ロックとは無縁に育った。親は息子たちが継いでくれると思っていたようだが、如何せん営農は儲からない。兄弟は次第にポップスに夢中になり、母の部屋で録音した曲を持って単身 EMI 本社へ。なんと対応したのは「5人目のビートルズ」と称された大プロデューサー、サー・ジョージ・マーティン!

当時は大企業しかスタジオを所有していなかった。機材を揃えれば録音スタジオができると思い付いたウォード兄弟は厩舎や納屋を改修し、豚の飼料袋を敷き詰めて防音壁を作る。徐々に機材を揃えつつ録音のノウハウを学ぶ。元銀行員の妻は会計、5~6歳の弟妹が電話番と受付を担うという家族経営が、世界初の滞在型録音スタジオに形成され行く過程はドキュメンタリーとして楽しい。

更に面白くなるのは、ロックフィールドに魅せられた英国ミュージシャンたちが次々と証言する逸話の数々だ。1965年、当時は無名のブラック・サバスがロンドンから225キロ離れたロックフィールドへやってきた。「農場なんて初めて見たさ!」彼らはあの「パラノイド」を大音量で録音。「 爆音は爽快だったぜ!」 。でも屋根は落ちそうになったとか。

‘70年代は、ジューダス・プリーストやマイク・オールドフィールドも利用した。大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』にロックフィールドの場面があったことを覚えておいでだろうか。キングズリーは、クイーンのフレディ・マーキュリーが「ボヘミアン・ラプソディ」の原曲をピアノで弾いていたのを覚えていると言う。

レッド・ツェッペリンのロバート・プラントは「‘80年代、ジョン・ボーナムが死んだ。ロックフィールドは自然の中で1人になれるところが気に入った」と語る。ロックシンガーのアイコン的存在だったカリスマの繊細な面が窺われる逸話だ。
グラスゴーから出てきたばかりで、「ロックフィールドは廃屋かと思った」と言うシンプル・マインズのジム・カー。マンチェスター音楽ムーブメントの火付け役となったザ・ストーン・ローゼズ。マッドチェスターとの呼称も懐かしい。アダム&ジ・アンツ、マニック・ストリート・プリーチャーズやザ・ダムドも、‘80年代のブリティッシュ・ロックシーンには欠くことの出来ないバンドだ。

ブリット・ポップ・ムーブメントを牽引した‘90年代。オアシスのリアム・ギャラガーが枕詞のように”Fワード”を入れながら語るのも面白い。 「マンチェスターの絶頂期に、 みんなウェールズに集まった。伝説の農場で酒とドラッグに音楽!最高!」と思い出話には当然ながら兄弟喧嘩。それにしても、オアシスは録音が速かった、1日に1曲仕上げた、という話は意外だった。へぇ~と思っていたら「早く済ませてパブに行きたかったからさ!」……納得。

ノウザンソウルズのシーンでは、ザ・シャーラタンズも忘れ難い。
コールドプレイのクリス・マーティンは「魔法学校のようだった」と語る。ウォード兄弟が腐心した残響の良いスタジオ、農場の大地、木々の幹にまでロックスピリットが埋め込まれているのだろう。
サンプラーなどのツールを使った楽曲作りが当然のようになった現代の音楽シーン。スタジオに集まってセッションするような体制は減り、デジタル化する一方だ。世界的にも閉鎖が進むスタジオ。当時の息吹を感じさせてくれる本作に於ける証言、語り継いでおきたい文化は本当に貴重である。
(大瀧幸恵)

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2020 年/イギリス/ドキュメンタリー/シネスコ/96 分/2.0ch/
配給・宣伝:アンプラグド
© 2020 Ie Ie Rockfield Productions Ltd.
公式サイト:https://rockfield-movie.com/#
★2022年1月28日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


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