麻希のいる世界

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監督・脚本:塩田明彦
出演:新谷ゆづみ(青野由希)、日高麻鈴(牧野麻希)、窪塚愛流(伊波祐介)、鎌田らい樹(岩佐優子)、八木優希(城島聡美)、大橋律(津田茂樹)、松浦祐也(金物屋店長)、青山倫子(青野良枝)、井浦新(伊波宗介)

高校2年生の由希(新谷ゆづみ)は持病を抱えており、彼女に求められることはただ生きることだけだった。ある日、由希は海岸で麻希(日高麻鈴)と出会う。麻希は周りから孤立していたが、彼女の勝気な態度は由希の心のよりどころとなる。そして、麻希が口ずさんだ歌声を聴いた由希はバンドを組もうと提案。由希を慕う祐介(窪塚愛流)は二人の関係に嫉妬しながらも、やがて協力するようになる。

塩田明彦監督の前作『さよならくちびる』を観た人なら、門脇麦と小松菜奈が演じる「ハルレオ」ファンとして登場する2人の少女を覚えておいでだろう。「ハルレオ」の楽曲を完コピし、思い余って泣き出してしまう……。たった一場面だが、2人の少女が醸す雰囲気が作品全体に響くほどの力を放っていた。塩田監督によると、
「いきなり歌い出した。その即興芝居を見て、すごい人だなと。あれは奇跡です」
あの演技が即興だったとは!驚きだ。

本作は奇跡の2人、新谷ゆづみと日高麻鈴が主演を務めている。当初は『さよならくちびる』のスピンオフを構想していたそうだが、独立した青春ものになった。ただ、主要登場人物3人が高校生だというだけで、コミックを原作とした青春映画のようなキラキラもトキメキも煌びやかさもない。冒頭から漂うのは寂寥、厭世、諦観、絶望。
難病を抱える由希、人生を棄てている麻希。つまり死の予兆が色濃く描かれた青春映画なのだ。『月光の囁き』『害虫』『カナリア』(←あの少女も”由希”だった)などで若い世代の意識を大人目線からではなく、リアルに描出した塩田監督。生ぬるい青春ものを撮るはずがない。

かといって、決して暗く重苦しい映画ではない。麻希の歌声は力強く迫り、2人に大きく関わりを持つ窪塚愛流扮する軽音部の祐介が奏でるソリッドギター、バンド活動の躍動感、弾んだリズムが伝わってくる。劇中歌は「塩田組」ともいえる向井秀徳が担う。

才能を持ちながら、破滅へ向かおうとする麻希。麻希を深く憧憬し、追い続ける由希。”学園の人気者”でありながら、2人に屈折した感情を持つ祐介。3人の心が千々に入り乱れる様は青春映画のそれに近い。異なる生育歴が3人を引き合わせ、手繰り寄せるのか。

塩田監督の脚本は先が読めない独創性を孕む。気付くと、あれほど濃厚だった死の予兆が薄れ、生への希望に転変しているのだ。観客は塩田ワールドの術中に嵌められる。新谷ゆづみ、日高麻鈴、窪塚愛流。共に2003年生まれの若い俳優のポテンシャルを引き出した演出力も見事だ。
それにしても、窪塚愛流は声、話し方、シルエットを含めた佇まいまで、父の窪塚洋介にそっくりである。鋭い眼光が今後の飛翔を期待させる。
(大瀧幸恵)


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2022年製作/89分/日本
配給:シマフィルム
公式サイト:https://makinoirusekai.com/
(C) SHIMAFILMS
★2022年1月29日(土)より、渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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