ザ・ユナイテッド・ステイツ vs.ビリー・ホリデイ (原題:THE UNITED STATES VS. BILLIE HOLIDAY)

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監督:リー・ダニエルズ『大統領の執事の涙』『プレシャス』 脚本:スーザン=ロリ・パークス
原作:「麻薬と人間 100年の物語 薬物への認識を変える衝撃の真実」ヨハン・ハリ著(作品社) 音楽:クリス・バワーズ『リスペクト』
出演:アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ『ムーンライト』、ギャレット・ヘドランド『オン・ザ・ロード』

「ビリー・ホリデイを止めろ! 彼女の歌声が人々を惑わせる」。1940 年代、人種差別の撤廃を求める人々が、国に立ち向かった公民権運動の黎明期。アメリカ合衆国政府から、反乱の芽を叩きつぶすよう命じられた FBI は、絶大なる人気を誇る黒人ジャズシンガー、ビリー・ホリデイにターゲットを絞る。大ヒット曲「奇妙な果実」が運動を扇動すると危険視し、黒人の捜査官ジミー・フレッチャーをおとり捜査に送りこんだのだ。だが、逆境に立てば立つほど、ビリーの圧巻のステージパフォーマンスは輝きを増し、肌の色や身分の違いを越えて全ての人を魅了する。やがてジミーも彼女に心酔し始めた頃、FBI が仕掛けた罠、そしてその先に待つ陰謀とは──?

「ビリー・ホリデイを止めろ!歌声がニガーを惑わせる。 公民権運動を歌で煽ってる。 夫を抱き込んだが、ビリーは歌を止めない」
「歌ってるだけでは罪にならないぞ」
「麻薬で捕まえるなら?」
1947年、米国連邦麻薬取締局長官は指令を出した。1937年、黒人へのリンチを禁止する法案が審議されたが、通過しなかった。 リンチを克明に歌ったビリーの代表作「奇妙な果実」が、公民権運動を扇動すると危険視したのだ。合衆国政府は、反乱の芽を叩きつぶすよう、FBIに命じ、麻薬局は上記のようなアプローチからビリーを追い詰める。

英国人作家が著した「麻薬と人間 100年の物語─薬物への認識を変える衝撃の真実」のビリー・ホリデイの章にインスパイアされたリー・ダニエルズ監督(『プレシャス』『大統領の執事の涙』)と、優れた女流脚本家のスーザン・ロリ=パークスが製作に着手。ビリーの半生に政治的視座を強調して結実したのが本作だ。

衝撃を受けた。誠実なファンを装ってビリーに近付く青年捜査官は裕福な出自の黒人。ビリーの”声”と人気に縋る怪しげなプロモーターも黒人。麻薬局の誘いに乗る夫。ビリーの金に群がる者。麻薬の売人。「奇妙な果実」を歌うな、と命令するクラブ主催者、マネージャー。ビリーが逮捕され「同胞の見本になるべきでは?」と批判する新聞記者などなど…。これらの人物全てが黒人なのである。
「黒人は成功した黒人をやっかむものなのよ」
達観したように話す取巻き。
あらためてタイトルの妙を想う。「白人vsビリー・ホリデイ」の単純図式ではなく、ビリーは全米と闘っていたのだ。米国人種社会の複雑さに慄然とする。

ダイアナ・ロスが主演した『ビリー・ホリディ物語』(72年)が、半ばシンデレラ的要素が濃厚だったのに対し、本作は連邦政府の命令に公然と反抗したことが、 早い死に繋がったとする原作を主軸におくため、印象は苦い。少女時代の悲劇から、差別体験、タルーラ・バンクヘッドとのレズビアン関係といった逸話が挟み込まれる。

が、ダイアナ・ロスでも再現が困難だったビリーの魅惑的な歌唱に挑んだアンドラ・デイは見事だ。約20キロ減量し、話し方や歌う声も変えたという。熱唱ではなく、抑え気味の力を抜いた声の色艶、口の開け方、肩の動きまでビリーが憑依したようである。偉大なジャスシンガーは、現代を真っ直ぐに見つめ、祈りと魂を継承してくれる。見逃せない1作だ。
(大瀧幸恵)


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2021 年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/131分/
配給:ギャガ
© 2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/billie/
Twitter 公式:@USvsBILLIE_jp
★2022年2月11日(祝・金)より、新宿ピカデリーほか全国公開


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