監督:赤阪友昭
撮影:古木洋平
録音:森英司
音楽:林正樹
歌:松田美緒
宮崎県西都市銀鏡。山や森などの豊かな自然に囲まれたこの地で、毎年12月中旬、銀鏡神社の大祭が催され、人々によって夜神楽の銀鏡神楽(米良神楽)が奉納される。この神楽には神々への舞を通して、星に祈りをささげるという一面があるという。
「星信仰」。一年で最も日の短い冬至を境とした特定の期間に、太陽の復活、生命力の再生を願い、悠久の宙へ向けて舞いと祝詞を捧げる人々がいる。「銀鏡(しろみ)神楽」。生命の源は星々が住まう宇宙。神楽は宇宙の摂理を内包した儀式のように見える。シャーマニズム的な五穀豊穣を願い、精霊や冥界の存在と交信する儀式とは異なるようだ。古代から伝承される観念を掴みあぐねている時、
”星は花に水を渡し、星は岩に火を宿し、星は人に心を刻む”
との概念が冒頭で示され、近付いたかに思われた。
丹念に映像を追ってみると、宮司たちが祈りを捧げる神殿に祀ってある当体物は宇宙人のような造形をしている。「月刊ムー」ではないので、その辺りを掘り下げる知見は持ち合わせていない。が、映画を横溢する山里の自然描写には息を呑むほど圧倒される。生の営みを支える水田、森に射す木漏れ陽、 透き通った川水の和流、霊験あらたかな龍房山に立ち込める霧……。近年これほどの透明感と自然音が醸す美しさが際立つドキュメンタリーはない。
撮影・編集の古木洋平と赤阪友昭監督は、再現不能な瞬間をカメラに収めるべく、朝な夕な宮崎県の中央に位置する奥日向の山へ立入ったことだろう。加工的な音楽の助けを借りずに構築された音響デザイン。自然界に存在する様々な音を繊細に掬い取り、情感を映画に齎した。映画にだけ許された動く絵画としての1秒1秒の豊潤さ。雄大にして神秘的な自然環境があますところなく収められ、力強さと繊細さが同居したショットに引き込まれる。
揺曳する光彩。透徹した眼差しを編集やカメラアングルからも感じ取れた。神の存在、共同体の掟、高度化された物質文明への問いかけのようだ。祝祭と陰りや儚さが表裏一体になる側面も描かれる。
集落は1年を通し、冬至を挟んだ期間に執り行われる例大祭へ向けて、一気呵成の如く纏まって行く。柚子や唐辛子などの地場産業を活かし、雇用と所得を確保することで、若者や子どもが定住できる社会を構築した成果だ。お盆の迎え火を焚く89歳の神主は張りのある口上が見事だ。
「隅から隅まで、ずずずい〜っと!これが健康法とよ」
絵を描いたり手作りの工作などを持ち寄り、お盆祭りに参加する子どもたち。若夫婦、祖父母世代、誰もがイキイキと歌や踊りを楽しんでいる。
例大祭の克明な撮影は、”映画を観て!”としか言いようがない。百万言を尽くしても映像の再現力に敵わないと分かっているからだ。「神さまが降りてこられるから」「お通りになるから」と丹念に道を整備する人。樒の葉を集め、神事用に纏める人々の器用さに目を見張る。集落全体がそれぞれの置かれた立場で例大祭の成功へ向け、手を知恵を結集させるのだ。
愚直に神を信じ、伝統を継承しようとする人々の宇宙的な精神に胸を打たれた。
(大瀧幸恵)
2022年製作/113分/日本
後援:宮崎県、西都市
製作:映画「銀鏡 SHIROMI」製作委員会
配給:映画「銀鏡 SHIROMI」製作委員会(赤阪)
公式サイト:https://shiromi-movie.com/
©2021 SHIROMI
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