監督:チャールズ・マーティン・スミス『ベラのワンダフル・ホーム』『イルカと少年』
原作:ジェームズ・ボーエン「ボブが遺してくれた最高のギフト」&「ボブが教えてくれたこと」(辰巳出版より、好評発売中)
製作:アダム・ロルストン『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』 /脚本・製作:ギャリー・ジェンキンス『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』
出演:ルーク・トレッダウェイ『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』『不屈の男 アンブロークン』、クリスティーナ・トンテリ=ヤング「シスター戦士」(Netflix)
ファルダット・シャーマ『ゼロ・グラビティ』、アンナ・ウィルソン=ジョーンズ「女王ヴィクトリア 愛に生きる」
ジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)と猫のボブは、出版社のクリスマスパーティーに参加した帰り道、路上演奏をしたことで警察に捕まったホームレスを助ける。ジェームズは捨て鉢になっている男性に、自分が生計を立てるために路上で過ごした最後のクリスマスのことを語り始める。それはジェームズとって最も難しい選択を迫られた、忘れられないクリスマスだった。
前作から6年。”肩乗りボブ”は健在だ。落ち着いた佇まい、愛らしい瞳、フワフワ茶色い毛並みに、今回はクリスマスシーズンのサンタコスプレまで見せてくれるのだから可愛さ倍増!思わず駆け寄ってハイタッチしたくなってしまう♪
『イルカと少年』『ベラのワンダフル・ホーム』など動物映画を監督してきたチャールス・マーティン・スミスだけに、ボブの可愛いショットの抜き方は心得ている。が、単に猫を愛でる映画に留まらず、英国が抱える経済格差、ホームレス、ドラッグといった社会問題まで拡張しながら、感動的な”愛され映画”に仕上げている。
冒頭は、ベストセラー作家になったジェームズとボブが出席する出版社の華やかなパーティ場面。ボブの目線から、するりと周囲を映し出す滑らかなカメラワークにより、ジェームズとボブが置かれた環境を理解する。あれから安定した幸せな暮らしをしているのだ……と安堵したものの、あるきっかけから苦難に満ちたクリスマスの日々を語り始める。
ボブのケガや体調不良、ジェームズ自身に起きた数々のピンチ、電気代もチャージ出来ない困窮生活。動物福祉局は彼が飼育者に適しているのか、眼を光らせる。ボブを思うがゆえ、自分のような者と暮らさず保護されたほうが幸せなのでは?と思い悩むジェームズ。”引き離さないで!”。あまりの切なさに、観客の心は切り裂かれる思いだ。
それにしても、英国の動物愛護精神の徹底ぶりに驚かされる。
「この猫が幸せかどうか確かめたい。ケガ?抗生物質の注射は?マイクロチップは登録済み?あなたに猫を飼う資格があるか調べます」
日本での児童相談所のように、1匹の猫の生きる権利のため、周囲への聴き取りに着手する。有名になった猫と飼主だからといって容赦はないのだ。
ジェームズが動物福祉局職員と揉めているところを撮影した動画が拡散され、事態は思わぬ展開に……。人々の善意と究極の優しさに心が温まり、観客は満たされた思いに浸るだろう。それもジェームズがボブを愛する気持ちが引き寄せたものだ。
コヴェント・ガーデンでの路上ライブ、ロンドンを彩るクリスマスの街並みが、シーズンのウキウキわくわく感を盛り立てる。観れば誰もが幸せになること請け合いのクリスマス映画として、定着することを望みたい。しかし、ボブは’20年に亡くなっている。無理に美談を引っ張らず、商業的に消費しないほうがいいのかもしれない、
(大瀧幸恵)
2020年/イギリス映画/英語/92分/
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配給:コムストック・グループ /
提供:テレビ東京、コムストック・グループ/
配給協力:REGENTS
公式サイト:http://bobthecat2.jp/#
★2022年2月25日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
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