「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト 2021」4監督作品

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ndjc(New Directions in Japanese Cinema):若手映画作家育成プロジェクト
次代を担う若手映画作家の発掘と育成を目的に、特定非営利活動法人映像産業振興機構(略称:VIPO、理事長:松谷孝征、東京都中央区)が文化庁から委託を受けて 2006 年度より運営する人材育成事業。優れた若手映画作家を公募し、本格的な映像制作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供している。
昨年夏に実施されたワークショップ参加者15人の中から団塚唯我、道本咲希、藤田直哉、竹中貞人の4監督を選出。脚本指導後、製作実地研修として昨年11月から順次クランクインし、今年1月の仕上げを経て完成した。


■監督:竹中貞人(TAKENAKA Sadato)
■作品:『少年と戦車』

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君が楽しく生きられないのは、世界が悪いんだよ。
窮屈な日常やイジメに悩む中学生の田崎は時々言葉を交わす少女、咲良に思いを馳せることが唯一の楽しみだった。湖に戦車が沈んでいるという情報を知った田崎は捜索へと出るが、そんな彼を待ち受けていたのは自分自身の思春期と向き合う壮大な精神の旅だった。

ワンアイデアで疾走する突破力は4作のうち随一かもしれない。学校という日常に戦車を持ち込んだ映像の喚起力と発想は観るべきものがある。夕景に映える学校の遠景、田園風景、湖畔を歩く詰襟姿の中学生など、抜けのよい映像と躍動的な劇伴、聴き取り易い音響デザインが思春期映画を牽引する機能を果たしている。

短編ほどビジュアルセンスが鮮明に顕在するだけに、苛めの場面に既視感を覚えたのは惜しい。更に、いくら妄想といえども、セーラー服を脱がせるモノ扱いのような表現は、同性から見て極めて不快であることを認識してほしい。
(大瀧幸恵)


○作家推薦:東京芸術大学 大学院 映像研究科
○制作プロダクション:東映東京撮影所
○出演:鈴木福、黒崎レイナ、笠井悠聖、林裕太、松浦祐也

監督:団塚唯我(DANZUKA Yuiga)
■作品:『遠くへいきたいわ』

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心配ないから、手をはなして。
アルバイト先へ面接にやってきた竹内(39)を見て動揺を隠せない紗良(21)。竹内の勤務初日、開店作業を終えたふたりはオープンを待つばかりのはずだったが…。互いに亡くしてしまった母 / 娘の面影を見出し合うふたりは、束の間の逃避行に何を求めるのか。

冒頭、レストランで「ぶつかったんだけど…」と小言を呈す客の自然体な台詞、主演2人によるタイトルの唱和から、この監督はとてつもなく”耳がいい”ことが分かる。邦画でイライラしがちなのは、”耳が悪い”ー即ち言葉の感覚に鈍感な監督の場合である。
団塚唯我監督の繰り出す言葉たちは、端正で品があり、耳への響きが心地好い。河井青葉が醸す浮遊感、野内まるのメディア擦れしていない清新さが奏功したのだろう。

加えて透明感あふれる映像は特筆ものだ。棚引くススキ、川辺りなど旅情を誘う詩情豊かなイメージは、抑制的かと思えば、自転車を滑らかなカメラワークが追い、疾走感を表現する。母性の欠乏を埋めようとした少女が「1人で生きる」と決めた成長譚に相応しい。

濡れた履歴書、黄色いセーター、バッティングセンターといったモチーフアクセントが画角に体良く収まり、目にも耳にも心地好い世界へ誘ってくれる。4作品中、最も創り手の技量とセンスが感じられた佳篇である。
(大瀧幸恵)


○作家推薦:なら国際映画祭
○制作プロダクション:シグロ
○出演:野内まる、河井青葉、フジエタクマ、津田寛治、金澤卓哉

■監督:藤田直哉(FUJITA Naoya)
■作品:『LONG-TERM COFFEE BREAK』

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そのコーヒーは美味しいですか?
大手企業に勤めるキャリアウーマンの優子は、ある日、直樹という男にナンパされる。職業は俳優、しかも自身の家を持たず、他人の家を転々と居候しながら暮らしているという、これまで出逢ってこなかったユニークなタイプの男・直樹に惹かれ、優子は一年後、彼と結婚する。

軽快な劇伴による男女の出会いは、ユニークな都会派ラブストーリーを予感させた。が、魅力ある俳優陣を揃えながらも、既視感ある男女関係の恋さや話に矮小化してしまう展開が惜しい。内向きにして半径数メートルの物語が、果たしてスクリーンスケールといえるのか疑問だ。若手のクリエイターには、これまでに見られなかった発想や概念、価値観の創設を期待するのは酷だろうか。

大胆な省略、同一アングルによる反復場面、リズム感ある編集など、センスの煌めきは感じられた。別な主題による飛躍を望みたい。
(大瀧幸恵)


○作家推薦:SKIP シティ国際 D シネマ映画祭
○制作プロダクション:ジャンゴフィルム
○出演:藤井美菜、佐野弘樹、福田麻由子、遊屋慎太郎、小槙まこ

■監督:道本咲希(MICHIMOTO Saki)
■作品:『なっちゃんの家族』

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なつみ、10 歳、末っ子。
登校中に家出を思い立つ小学生のなつみ。遠い祖母の家を訪れると突然の訪問に驚かれるが、なつみの心境を察し温かく迎え入れてくれた。なつみは両親の不仲に疲れ切っていたのだ。自然体で接してくれるおばあちゃんとの時間になつみの心はほぐれていくが、翌日両親が現れ・・・。

登校前、母に髪を結ってもらう10歳のなっちゃん。起き出してくる父。寝坊して不機嫌な兄……。何気ない朝の光景なのだが、何かがおかしい……。みんななっちゃんを通してしか話さないのだ!家族の軋みを瞬時に可視化して見せた道本咲希監督の正攻法演出に唸らされる幕開けだ。

子役の演出は難しい。子役の善し悪しによって映画の成否が決まってしまうリスクを伴う。本作の上坂美来の起用は奏功したのではないか。こまっしゃくれてもいず、棒立ち棒読みでもない。クラスにたいてい1人はいる、しっかり者の女の子を気負いなく演じている。道本監督の演出法を聞きたくなったほどだ。

それに比べると父母役の斉藤陽一郎、須藤理彩のキャスティングは新味に欠け、演技も加工的。輝いているのは祖母役の白川和子である。なっちゃんへの愛情が全身から発散され、登場した瞬間から説明の必要がない造形ぶりだ。リアルな旧い日本家屋に、温かな佇まいがしっくり嵌まる。
終盤、なっちゃんとおばあちゃんが肩を寄せる後ろからのショットが良い。眠くなるのは情緒が安定した証拠、というJ・D・サリンジャーの小説を思い出した。なっちゃんを心から応援したくなる掌の小品だ。
(大瀧幸恵)


○作家推薦:PFF
○制作プロダクション:アミューズ
○出演:上坂美来、白川和子、斉藤陽一郎、須藤理彩、山﨑光

2022 年/カラー/ビスタサイズ/30 分
©2022VIPO
公式サイト:http://www.vipo-ndjc.jp
公式 twitter:https://twitter.com/ndjc_project
★2022年2月25日(金)より、角川シネマ有楽町で1週間限定公開、大阪、名古屋でも順次上映予定

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