ガガーリン (原題:Gagarine)

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監督:ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ  
出演:アルセニ・バティリ、リナ・クードリ、ジャミル・マクレイヴン、ドニ・ラヴァンほか

パリ郊外にある大規模公営住宅ガガーリンに暮らす、16歳のユーリ(アルセニ・バティリ)。老朽化と2024年に開催されるパリ五輪のためにガガーリンの解体が決定して住人の退去が進むが、彼は亡き母との思い出が詰まったこの場所を守りたいと考える。友人のフサーム、ディアナと解体計画の阻止に奔走するうちに、自由で明るいディアナに惹(ひ)かれていくユーリ。刻々と期限が迫る中、宇宙飛行士になる夢を抱く彼は、無人となった団地が宇宙船に見えるように手を加えようとする。

創造性の国フランスから、またもや独創的な魅力に溢れた名編が誕生した。これがデビュー作だというファニー・リアタールとジェレミー・トルイユの男女監督ユニットが、実在したパリ郊外の団地ガガーリンが解体される一点から想像力の松明を掲げつつ、現代の”方舟”ファンタジーを造形したのだ。SF?社会派?青春映画?どれでもないし、何れの要素も含んでいると言えよう。かつて観たことがない作風、そして二度と再現不可能な建造物をスクリーンに焼き付けた。主演は映画初出演の移民青年。メディア擦れしていない素の若者を”方舟”に乗せ、宇宙へと飛翔させた。

浅薄な知識ゆえ、パリ南東部に低所得者層団地があることも、その地域が「⾚いベルト」地帯と呼ばれるフランス共産主義の牙城であるなど知る由もなかった。名称は、’61年に人類初の有人宇宙飛行を成功させた宇宙飛行士に因んでいる。同年に着工し、落成式にはガガーリン本⼈が訪れた団地は、仏ソ共産党友好の象徴と看做されていたそうだ。

約60年後、ガガーリンと同じ名を持つ16歳のユーリは、恋人の許へ去って行った母も、ホームタウンである団地さえも失おうとしている。次々と退去して行く家族兄弟同然だった住民たち。団地近くにキャンプを張るロマの美少女に想いを寄せながら、籠城を決め込む。
「水と土と空気が生命活動のための三大要素だ。宇宙で大切なのは空気。ここでも同じさ」
少女を案内するユーリ。無人の室内に菜園を築いていたのだ。茸の菌床栽培、バッタが飛び交う温室、煌めく「星図」の部屋もある。団地の残留物で造られたユーリだけの宇宙空間……。幻想的で豊かなイメージに彩られた映像美に魅せられた。

夢と現実の狭間で魂の彷徨を続けるユーリは、どうなってしまうのだろう。宇宙との交信、友人たちに送る名前のモールス信号といったモチーフが伏線となり、着地点は優しさとリリシズムが匂い立つ。失われ行くユートピアを慈しむ情感が画面を横溢する。誰もが共振出来る普遍性に手を授けた人間賛歌だ。
(大瀧幸恵)


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2020|フランス|98分|カラー|シネスコ|5.1ch|フランス語| 映倫G
配給:ツイン
(C)2020 Haut et Court – France 3 CINÉMA 
公式サイト:https://gagarine-japan.com
★2022年2月25日(金)より、新宿ピカデリー、HTC有楽町ほか全国ロードショー


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