アンネ・フランクと旅する日記 (原題:Where Is Anne Frank)

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監督・脚本:アリ・フォルマン『戦場でワルツを』『コングレス未来学会議』
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン『戦場でワルツを』『コングレス未来学会議』
アートディレクター:レナ・グバーマン『コングレス未来学会議』
オリジナルスコア:カレン O『かいじゅうたちのいるところ』/ベン・ゴールドワッサー
声の出演:ルビー・ストークス/エミリー・キャリー

オランダ・アムステルダムにある博物館アンネ・フランクの家には、オリジナル版のアンネの日記が保管されている。ある嵐の晩、その日記の文字が突然動き始め、アンネの架空の友人キティーが現代のオランダに現れる。時空を飛び越えたことがわからず、自分は1944年にいると思っている彼女は、親友のアンネを捜してアムステルダムの街をめぐる。

雷雨のアムステルダム。アンネ・フランク博物館に所蔵された「アンネの日記」原本のガラスケースが割れる。インク状の文字が飛び交い宙を舞い始め、それがキティの姿へと変身する……。この冒頭から心を掴まれてしまう観客は多いだろう。少女時代に何度も読み返した原作が、これほど幻想的且つ叙情性を帯びたアニメーションに昇華するとは!
アンネ・フランクが日記に綴ったイマジナリーフレンドのキティーが語り部であり、アンネの化身となって彷徨する旅路。あまりにも有名な原作を換骨奪胎し、叙情味は失わずにアップデートしたのは、『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督(脚本も)である。

フォルマンは、現在とアンネが息づいていた時代の間をエネルギッシュなフットワークで往還する。アンネを神格化せず、あくまで普通の女の子として描出した視点、キティーとアンネが交わす”ガールズトーク”が楽しい。
外は軍靴が鳴り響く不穏な情勢下。アンネ一家が暮らす隠れ家では、アンネのお誕生パーティが催されていた。母からプレゼントされた日記帳を手に、アンネは姉のマルゴーと日記談義を始める。
「私は”彼女”を親友にするわ! 青い瞳にジャクリーヌみたいな体型、 ヴェロニカ・レイクの髪型、エヴァ・ガードナーの唇!私みたいに笑顔で機知に富んで元気な子。名前はキティーよ。キティと呼ばれたかったの!」
アンネの肥大する想像力を、フォルマンは慈しむ想いでリリシズムと溶け合わせ、映画を瑞々しく実装する。

「映画館に入れないのが1番辛いわ」
大好きなハリウッドスター、クラーク・ゲーブルと結婚するのが夢〜♪な”推し活”アンネ。「クラス中の男子全員が私に夢中なのよ!」とのたまう、ちょっと面倒くさいアンネ。「キティー、あなたはイマジナリーフレンドだからユダヤ人にしたくない」……現実と向き合うアンネは哀しげだ。

フォルマンは、アンネを覆う悲劇性を観客に押し付ける話法は採らない。男子たちにモテモテのアンネの周囲には色彩豊かな花々が舞い、明るいトーンで描かれる。その分、“東”へと移送されるアンネが、ギリシア神話の死後の世界を信じ、想像力を武器として恐怖の死神と闘った……とする描写力の重さが効いてくる仕掛けだ。アニメーションならではの作画法を心得た演出に唸らされた。

「もう辛くて読めない」と日記を伏せるキティーに、「君が伝えるんだよ」と励ますのはペーター。現代のアムステルダムで出会った難民の少年である。キティーはアムステルダムに逃れ着いた難民たちのため、ある行動に出る。活動家としてのキティーを力強く情感を込めて炙り出すことにより、本作はメッセージ性を得たのだ。
キティーに、今なお差別や憎悪が渦巻く現代と過去を繋ぐ架け橋の機能を齎せている。
本作は「アンネの日記」を読んだことがない人、また若い世代の入門版として、分かりやすい体(てい)を取りつつ、導いてくれる好編に違いない。
(大瀧幸恵)


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原案:「アンネの日記」(ユネスコ「世界記憶遺産」2009 年登録)
協力:アンネ・フランク基金
後援:オランダ王国大使館/イスラエル大使館
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
2021 年/ベルギー・フランス・ルクセンブルク・オランダ・イスラエル/英語/99 分/ビスタサイズ/5.1ch
© ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
公式 HP:https://happinet-phantom.com/anne
公式 Twitter:@anne_movie2022
★2022年3月11日(金)より、TOHO シネマズ シャンテほか全国公開


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