ヴォイジャー (原題:Voyagers)

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監督・脚本:ニール・バーガー『ダイバージェント』
撮影:エンリケ・シャディアック『バンブルビー』『メイズ・ランナー』
編集:ナオミ・ジェラティ『リミットレス』
音楽:トレヴァー・ガレキス『オールド』
出演:タイ・シェリダン『レディ・プレイヤー1』、リリー=ローズ・デップ『プラネタリウム』、フィオン・ホワイトヘッド『ダンケルク』、コリン・ファレル『THE BATMAN-ザ・バットマン-』

地球温暖化による飢饉が人類を襲い、科学者たちは居住可能な新たな惑星を探した。そして2063年。可能性を秘めた惑星を発見し、探査隊を派遣することになる。航行にかかる期間は86年。乗員は訓練を受けた30人の子供たちと、彼らの教官であるリチャードが同乗した。子供たちは船内で成長して子孫を残し、惑星に到達するのは彼らの孫の世代だ。子供たちはリチャードに従順に従い、航行は順調かにみえた。そして10年後。クリストファーとザックは、彼らが毎日飲む薬によって人間としての欲望が抑制されていることを知る。そして、反発した乗員たちは本能の赴くままに行動するようになり、ある事件をきっかけに船内の統制が崩壊していく―。

86年……。使命を授けられた子どもたちにとって、宇宙船の中だけで過ごす86年は未来永劫のように思えただろう。彼らの役目は次世代、そのまた次の世代を育むことである。人間が居住可能な惑星へ無事に子孫を送り届けたら、その使命を終える。つまり”生殖”が主題の映画なのだ。にもかかわらず、本作には艶っぽいシーンは殆どない。主要キャストのティーンエイジャーはラブシーンが似合いそうな美男美女ばかり。青春時代のキラキラやトキメキを発露する描写もない。”本能が暴走”しないよう、衝動を抑制する薬物を飲まされているからだ。

”薬物を止めた”者だけが、動物的に異性への欲望を覚え、行動に移す。同性同士でレスリングのような闘争本能をぶつけ合う。大人たちの壮大な計画の駒となり、無自覚に生きている子どもたちには、枷を打ち破った者たちの行動は奇異にしか映らない。彼らは、人間の生育過程に絶対必要な二次成長を抑えられながらも、子孫を残す命題を担うという矛盾した存在なのだ。

舞台は、ほぼ宇宙船内の無味乾燥な世界。同じく若手美男美女俳優が出演した『ダイバージェント』のニール・バーガー監督は、シニカルな未来、重い使命を授けられた若者たちをスタイリッシュ且つ抑制的に描く。ハリウッドサスペンスSFに有りがちな仰行な劇伴やロマンチックな展開はない。閉ざされた空間で目覚め行く人間性。感情の発露を知った時、彼らの関係性はどう変化するのか?物語はどのように着地し、任務を全うすることはできるのか?

バーガー監督は、キューブリック作品を想起させる長く冷たい宇宙船の通路を幾つもの世代が突き進むイメージを喚起し、人類が辿り着く予兆を示している。『レディ・プレイヤー1』のタイ・シェリダン、ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの遺伝子を継ぐ美人女優リリー=ローズ・ デップ、『ダンケルク』での好演が記憶に新しいフィオン・ホワイトヘッドら次世代スターから憂いと狂気、混乱、戸惑い、儚さといった魅力を引き出すことに成功している。
(大瀧幸恵)


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2021年/アメリカ・チェコ・ルーマニア・イギリス映画/英語/108分/シネスコ/5.1ch/映倫G
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム/voyager-movie.com
Ⓒ 2020 VOYAGERS FINANCING AND DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://voyager-movie.com/
★2022年3月25日(金)より、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国にて公開

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