マイライフ、ママライフ

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監督・脚本︓⻲⼭睦実
脚本監修︓狗飼恭⼦
撮影︓島⼤和
主題歌︓⼩⽟しのぶ
出演:鉢嶺 杏奈 尾花 貴絵 池⽥ 良 柳 英⾥紗 中⽥ クルミ 多⽥ 真翔 澤邊 優愛 真辺 幸星 ⼭中 雄輔 ⾼⽊ 悠⾐ 蔦 陽⼦ ヴァネッサ・パン 広野 桜 清瀬 やえこ 中野 マサアキ 森本 のぶ ⽔野 勝

結婚から3年、⼤内綾(30)は仕事に熱中する⽇々を送っていた。夫・健太郎から「そろそろ⼦どもが欲しい」と⾔われるが、綾は妊娠・出産に勇気が持もてない。ある⽇綾は仕事で、⼦どもを持たない夫婦が⼦どものいる家庭を体験する『家族留学』のイベント運営を任される。2⼈の⼦どもを育てながら働く三島沙織(30)の家庭に体験に⾏くが、綾は⽣活のためには「本当にやりたい仕事」を諦め事務職で働く沙織の気持ちが理解出来ず傷つけてしまう。⼀⽅の沙織も、夫からの家事育児の協⼒が得られず不満が積もる⽇々を送っていて…。

「夫にゴミ出しを断られたの。ゴミ出しなんて家事のうちに入らないのに!」
「男女平等参画社会と言うなら子育ても平等でしょ?子どもの面倒は誰が見るの?」
「 迎えに行って”あげた”?”あげた”ってナニ?!」
「子どものオムツ替えも出来ないなんて父親?」
「夜遅くまで働いたって、延長保育代で結局、家計は赤字…」

ワーキングマザーには響きすぎる程の切羽詰まった言葉が、本作には溢れている。「分かる分かる!」と心の中で叫んでいた。悲痛な叫びは台詞だけではない。映像面でも細部のディテールにリアルさが充満だ。乳児と保育園児の子どもを育てる沙織の朝は忙しい。
「タオル、ハンカチ、着替え、水筒、お弁当…」
そうそう、保育園というのは細々とした持ち物がやたらと多い。タオルもお昼寝用の大きめバスタオル、汗拭き用、食事用、外遊び用…。指定された通りに持たせなければならない。それも2人分となれば、”民族大移動”まがいの大荷物だ。ジッとしないし、ぐずる子どもをなだめすかして園に預け、這々の体で出勤すれば、上司から
「もっと早く来れないのかね?」

この監督や製作陣は分かっている。頭だけで母親の忙しさを描いていない。肌感覚・身体性を通して、ワーキングマザーの過酷な現実を描こうとしている姿勢が痛いほど伝わってくる。子育てママに「寄り添う」「繋がる」などと安易にできるものではない。観客には分かってしまうのだ。「結局、映画なのよ。ドラマの出来事だからよね」と溜め息をつかれるのがオチだ。

義母や夫どころか周囲の人たちに、早く子作りを、と急かされる綾の立場にも共感必至だろう。「子育てしない女は一人前と認められないの?」とうんざりし、子どもの話を遠ざけるようになってしまう。人生設計は他人が決められないもの。口を出してくる外野の多いこと…。
そんな綾が、「家族留学」というイベントに参加したことを契機に、沙織一家と知り合い、家族や仕事への向き合い方、ライフプランについて、深く考えるようになる設定は上手い構成である。

儘ならない人生をどう切り開いていくか。成りたい自分に近付くには?夢を実現させるためには、多少の我慢や妥協も必要。まずは家族と話合い、深く理解し合わなくちゃ…。
百人百葉の人生がある。本作でも様々なロールモデルが提示され、それぞれに明るい予兆が萌す。綺麗ごとで終わらないのは、前述したように、登場人物たちの描写、演出話法がリアリティを伴っているからだろう。

沙織を演じる鉢嶺杏奈、綾役の尾花貴絵、それぞれの夫や会社の同僚たちも力まず自然体な演技で好感が持てる。「平成元年⽣まれは、令和元年に30歳を迎えた」という⻲⼭睦実監督(脚本も)が同世代の演者、スタッフと届けた「今の⼥性の”幸せ”について、多様な価値観を表現し、“不安”を抱えている⼈達に”共感と可能性“を⽣む映画」。
ワーキングマザーのみならず、夫や義母、昭和世代のおじいちゃんたちにもぜひ観てほしい作品だ。きっと大切な家族や仕事、何より自分について語り合う体験になることだろう。
(大瀧幸恵)


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製作︓Kugumi
配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
配給協⼒︓ミカタ・エンタテインメント
2021 年|⽇本|カラー|86 分
©2021「マイライフ、ママライフ」製作委員会
公式サイト:https://mymom.mystrikingly.com/
★2022年4月1日(金)より、渋⾕ HUMAX シネマほか全国順次ロードショー

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