リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス (原題:Linda Ronstadt: The Sound of My Voice)

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監督:ロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン 製作:ジェームズ・キーチ、ミッシェル・ファリノーラ
音楽:ジュリアン・レイモンド
撮影:イアン・コード、ナンシー・シュライバー
出演:リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウン、エミルー・ハリス、ドリー・パートン、ボニー・レイット、ライ・クーダー、ドン・ヘンリー、ピーター・アッシャー、デヴィッド・ゲフィン、キャメロン・クロウ

1967 年に音楽界に彗星のごとく登場して以来、リンダ・ロンシュタットはその類い稀なる歌声でフォーク、カントリー、ロック、ニューウェーブ、オペラ、さらには彼女のルーツであるメキシコ音楽に至るまで、あらゆるジャンルを歌いこなし、心に残る曲を創り続けてきた。「悪いあなた」「ブルー・バイユー」「イッツ・ソー・イージー」など幾多の全米ナンバーワン曲とミリオンヒットアルバムを叩き出し、1970 年代に最も人気を博した女性レコーディング・アーティストとなった。ポップ・カントリー・R&Bの各チャートで同時に 1 位を獲得し、グラミー賞®に 26 度ノミネートされ 10 度受賞。男性が支配的立場にあった音楽業界において女性ミュージシャンのパイオニア的存在となった。79 年には日本武道館を含む複数都市でのツアーも成功させるなど日本でも人気を誇った。2013 年にパーキンソン病と診断され引退を余儀なくされたが、彼女の音楽とその影響は時空を超えて今なお生き続けている。アメリカ合衆国アリゾナ州ツーソンで生まれ育った幼少期から、70 年代および 80 年代前半に「カントリー・ロックの女王」として君臨した成功までの軌跡を彼女自身がガイドしてくれる。

「なぜ歌うかって聞かれると、こう答えるの。鳥が囀るのと同じよ」
リンダ・ロンシュタットが”米国の国民的歌姫”であることを実感できる初ドキュメンタリーだ。世代的には、ど真ん中のリンダだけに、多くのヒット曲は押さえているつもりだった。が、リンダその人については、あまり知らずにいたようだ。祖先はドイツ移民(そういえば姓がドイツ風)で、メキシコにもルーツがある音楽一家。幼い頃から歌はスペイン語、日常会話は英語だった点など初めて聞く逸話が興味深い。アーカイブ映像と共に、冒頭から惹き付けられた。

生涯のパートナー、JD・サウザー、歌手のドリー・パートン、エミルー・ハリス(今でも美しい!)、ボニー・レイット、ジャクソン・ブラウン、ライ・クーダー、映画監督のキャメロン・クロウといった友人、共演者らが登場し、リンダを絶賛紹介する証言者たちの登場も澱みない。

18歳でアリゾナ州ツーソンからサンタモニカのビーチへ出てきたリンダ。バンド活動を始め、ドアーズ ライ・クーダーやドン・ヘンリーと知り合い、直ぐにスカウト〜デビュー♪ 音楽業界は圧倒的な力量を持つリンダを歓迎した。若い頃の歌声を聴いても、本当にパワフルで豊かな声量、声の持つ色艶に魅了される。
「リンダは歌を聴けば自分のものにできるの、持ち歌のようにね」
ドリー・パートンが讃えるように、どの楽曲もリンダのレパートリーになってしまう。

アコースティックギターでレコーディングした楽曲をオーケストラにアレンジしたレコード会社の方針に大反対。
「結局、アコギにしてヒットしたのよ」
若い時から主体性と自身の音楽スタイルを確立していたリンダが頼もしい!
デビューはバンドだったが、ソロになった頃に出演したトークショーでのリラックスして話すリンダの様子は貴重だろう。親しみやすい容姿は如何にもアメリカンガールだ。カントリー、ポップな楽曲からメロウな曲調まで歌いこなす若手歌手はメディアの注目を浴びたことが伝わる。

暮らし始めたJD・サウザーとは似合いのカップル。ドラムにドン・ヘンリーを雇い、グレン・フライのギター感激して自身のツアーに帯同させたことが、イーグルスの誕生に繋がるとは、往年のファンにとって楽しい逸話だ。それにしても「デスペラード」 は誰が演奏も名曲である♪

男社会だったロックの世界。疎外感と孤独が募り、ドラッグで自滅する男性ミュージシャンが少なくなかった中、意外にも当時の女性歌手には競争意識がなく、結束が固かったという。アーティストとしての共同体、コミュニティのまとめ役をリンダは務めていた。

「悪いあなた」や「ブルーバイユー」などが、ポップスチャートでもカントリーチャートでも大ヒット!ツアーに出れば連日満席。当時のボーイスカウト衣装を纏ったリンダをよく覚えている。最高に輝いていた☆ キャリアの絶頂はアニー・リボヴィッツが撮影したローリング・ストーン誌の表紙。女性歌手では初の表紙だったのだ。タイム誌の表紙も飾ったリンダだが、ステージ後は男ばかりのバックバンドと荒れた生活を送っていたらしい。リンダの場合はダイエット薬。心身が不安定になり、痩せていく様子が分かる。マリブのビーチハウスで孤独だったリンダ……。

アリーナツアーよりも音楽性を大切にしたいと舵を切ったのはその後だ。オペラに挑戦していたとは知らなかった。見事なハイソプラノを披露している。最愛の母が亡くなり、母世代の名盤を研究し始め、シナトラのジャズを歌ったり、メキシコでのマリアッチツアーが成功、ニューオーリンズではネヴィルブラザースと共演し、ドゥワップもこなすなど、歌の世界では無双なリンダ!

現在、祖母と同じパーキンソン病と闘っているリンダの軽快を願って止まない。歌の神さまに愛されたリンダ。決して神は見放さないだろう。
(大瀧幸恵)


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2019 年/アメリカ/93 分/ビスタ/ステレオ
提供:ジェットリンク
配給:アンプラグド
©LR Productions, LLC 2019 – All Rights Reserved
公式サイト:https://unpfilm.com/rockumentary2022/
★2022年4月22日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか3作連続公開

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