監督・脚本:マイク・ミルズ
音楽:アーロン・デスナー、ブライス・デスナー(ザ・ナショナル)
出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング=ホワイト
ニューヨークでラジオジャーナリストをしているジョニー(ホアキン・フェニックス)は、ロサンゼルスに住む妹に息子のジェシーの面倒を見てほしいと頼まれる。9歳のジェシーはジョニーが独身でいる理由や自分の父親の病気のことなどを遠慮なく尋ね、ジョニーを困惑させるが、二人は次第に仲良くなる。そして、ジョニーは仕事のために戻ることになったニューヨークへジェシーを連れて行くことにする。
『ジョーカー』から2年を経て、対極ともいえる作品を選んだホアキン・フェニックス。ゲイの父をモデルにした『人生はビギナーズ』、母を描いた『20センチュリー・ウーマン』など、作品に自身の人生を準えることで知られるマイク・ミルズ監督(脚本も)。両者のタッグが、天才的な子役との出会いにより、稀に見るケミストリーを生んだのが本作だ。エッジィな演技を披露する印象が強いホアキンの“母性”を引き出すとは!
監督が子どもをお風呂に入れている時に着想した物語だという。奇しくも、ホアキンも同じくルーニー・マーラとの間に息子が生まれている。
本作の2人は、血族とはいえ「僕のおじさん」的な斜めの関係性を保ち、私小説的な湿度の高さを嫌う。モノクロ映像から立ち上がるのは、絶妙な距離感だ。生々しさを避けた透明感溢れる抒情的な画面に、ぎこちないけれど慈しみ合っている叔父と甥が醸す雰囲気は多幸感を齎し、観客を癒してくれるだろう。
9歳のジェシーを演じるのは、オーディションで圧巻のアドリブ演技を披露し、監督とホアキンを絶句させたという英国出身のウッディ・ノーマン。2015年生まれ(!)ながら豊かなキャリアを持つ子役だ。流石に、“世界一俳優の層が厚い国“である。子役も突出しているのだ。ハリウッド屈指の演技派ホアキンに対し、全編出ずっぱりでありながら全く引けをとらない名演を見せている。本作成功の要因は、ウッディにあった、といっても過言ではない。
ホアキンはホアキンで、出演オファーに「僕にはできない。どうやって演じればいいのか分からない」と監督に告げたという。2人は何か月もかけ、共に台本を読み込んだ。ホアキンがジョニー役、その他全ての役を監督が演じ、時には4~5時間かける日もあったそうだ。そのように練り込んで作った脚本に穴はない。
ホアキンは、監督からインスピレーションを受けるため、具に監督を観察。監督の私服や靴を借り、髪型まで似せたという逸話も面白い。
「ミルズ監督には温かさと繊細さがあり、それがキャラクターにも反映されているよ。彼は見た世界に影響を受け、物事を強く受け止める人なんだ」
と監督から受けた役作りへの影響を語っている。
本作を非凡なものにしているのは、ラジオジャーナリストであり、プロインタビュアーのジョニーが、デトロイトやニューオリンズなど、全米を回って子どもたちの声を聴くパートである。ドラマの推移と無関係に差し挟まれるこのドキュメンタリーと思しきパートが、私小説的なドラマに没入するのを避け、観客に冷静になる隙間を与えている。どの子どもたちの言葉も印象深い。聞き手となるジョニーは一切口を挟まず、自由に話させる。そのような空間まで醸成したスタッフワークの勝利だろう。
「C’MON C’MON」の原題が示す意味が分かった時、現代になぜこうした作品が誕生したか、監督の主訴が映し出される。ホアキンの演技としては、個人的に大好きなスパイク・ジョーンズ監督作『her』に近い。優しく温かいホアキンの母性的な側面を見逃す手はないでしょう。
(大瀧幸恵)
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
2021 年/アメリカ/108 分/ビスタ/5.1ch/モノクロ/
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公式サイト:https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
公式 Twitter・Instagram:@cmoncmonmoviejp
★2022年4月22日(金)より、シネマズ 日比谷他全国ロードショー
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