N号棟

16501808855410.jpg

脚本・監督:後藤庸介  
企画・プロデューサー:菅谷英一
音楽:Akiyoshi Yasuda 
主題歌:DUSTCELL「INSIDE」(KAMITSUBAKI RECORD)
出演:萩原みのり、山谷花純 倉悠貴、岡部たかし 諏訪太朗 赤間麻里子、筒井真理子

とある地方都市にある、かつて心霊現象で有名だった廃団地。女子大生の史織(萩原みのり)が同じ大学の啓太(倉悠貴)、真帆(山谷花純)と共にその団地を訪れると、廃虚のはずの場所には多くの住人たちがいた。3人が建物を探索しようとした矢先、突然怪現象が始まり、さらに目の前で住人が飛び降り自殺をする。彼らがショックを受ける一方で、住人たちは平然としており、おびえる若者たちを仲間にしようと迫ってくる。やがて、啓太と真帆は続発する不可解な現象によって洗脳状態に陥り、史織は追い詰められてしまう。

今から22年前の2000年、岐阜県富加町で発生した団地に於ける不審な現象を覚えている方もおいでだろう。硬派なTV番組までが報道したため、単なる都市伝説を超えた”事件”として記録された。頻繁に起こるラップ現象、勝手に開閉するドアやカーテン、靴箱、リモコンを触っていないのにチャンネルが切り変わるTV…などの怪奇現象は、団地の一棟だけで複数発生したと言われている。

この現象の発生源は、本作のヒロイン史織が直感したように、住人たち自身だったのか?それとも、本当に霊が?幽霊は存在していたのか?…… 実在の事件を基に想像力の松明を掲げ、独自の視点から真実に迫ろうとしたイキや良し! 監督は『リトル・サブカル・ウォーズ 〜ヴィレヴァン!の逆襲〜』などサブカルの世界にも通じ、「世にも奇妙な物語」を演出した実績のある後藤庸介だけに、スタイリッシュ且つ気品まで備わったジャパニーズ・ホラーが立ち上がった。

ホラーが苦手な人でも、本作なら受忍限度の範囲かもしれない。グロいスプラッター場面はなく、安手のギミックを用いない。序盤から哲学的な問いが投げかけられる。
「生と死の境い目はどこに?」
史織が大学の授業で答えるように、意識が存在しないのだとしたら、明確に断絶できずシームレスなものなのかもしれない……。後藤監督の死生観が窺える鎮魂歌だ。

映画の多くは、夜の闇や寒色に覆われた世界が支配する。映像トーンの統一感は重要だ。本作を静謐のうちに混沌の気高さを表してやまない要因は、筒井真理子や赤間麻里子といったベテラン俳優陣の演技によるところが大きい。団地住民たちの群像模様が有機的なざわめきを織り成す中、揺るぎない佇まい、冷静で善良な存在態様が際立ち、説得力を生んでいる。

異世界に放り出された史織役の萩原みのりは、実際に廃団地で撮ったという実像と、フィクションとしての虚像が重なった虚実皮膜を身体で体現した力演が見ものだ。ホラーにしては鑑賞後感が悪くないのも、稀少な体験になろう。
(大瀧幸恵)


16501809493261.jpg

製作:「N号棟」製作委員会 
2021年/日本/103分/PG12
制作:株式会社MinyMixCreati部 
配給:SDP
公式サイト:https://n-goto.com/
★2022年4月29日(金・祝)より、新宿ピカデリーほか全国公開

この記事へのコメント