スージーQ (原題:SuziQ)

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監督・製作:リーアム・ファーメイジャー
編集:サラ・エドワーズ
撮影:ジャック・イートン、ジェームズ・ナトール、デヴィッド・リチャードソン
出演:スージー・クアトロ、ジョーン・ジェット、デボラ・ハリー、シェリー・カーリー、リタ・フォー

女性ロックシンガーのパイオニア的存在であり、女優や作家などさまざまな分野で活躍してきたスージー・クアトロ。音楽一家に生まれた彼女は、アメリカからイギリスに渡り、1973年に発表したシングル「キャン・ザ・キャン」で全英1位を獲得。女性ロックミュージシャンのイメージを変え、成功を収めた彼女だが、輝かしい功績の中で犠牲にしてきたものもあった。

‘70年代のロックシーンに夢中だった世代には、スージー・クアトロの「悪魔とドライブ」の出だし
「Hey, you all want to go down to Devil Gate Drive? (ねぇ、みんな!悪魔の門までドライヴしたくない?)」
という"悪魔の誘い"にゾクゾクと血が騒ぐのではないだろうか?
あの頃、「キャン・ザ・キャン」、「48クラッシュ」、「デイトナ・デモン」、「ワイルド・ワン」などなど、スージーは大ヒット曲を連発。「ベースは子宮に響く」とのたまい、レザースーツを着てシャウトしながら男たちを従える様は最高にカッコよかった!

ザ・ランナウェイズのシェリーやジョーン・ジェットは、
「彼女が初めてドアを開いたの。スージーの背中を追った。今の若い子は可愛そうね。彼女を知らないのだもの。 勉強すべきよ」
と、バンドを始めた契機になったと、影響を受けた点を熱く語る。

来日時の白無垢結婚式は、ご愛嬌だ(笑)。"酒ロック大関"のCMにも出演していたっけ。とにかくガールズバンドの草分け的存在、史上初の女性ハードロッカーとして一世を風靡したスージーは世界中で大人気。確実に時代の真ん中にいた。ロック史の1ページを飾り、欠くことのできないレジェンドとしては遅すぎるドキュメンタリー。
そんな輝かしいスージーが、出身の米国では受け入れられず、セールスが芳しくなかったこと、音楽一家でスージー1人が成功を収めたため、家族との軋轢が生まれてしまったことなど、知られざる一面が詳しく描かれ、ファンには必見の1作となっている。

車も街デトロイトに生まれたスージーには、4人姉妹と兄がいる。音楽家でイタリア系の父と、カソリック教会でゴスペルを歌う兄妹だった。先にミュージシャンとして成功したのは兄。姉たちと楽器を分担し合い、スージーは残ったベースを担当することに。14歳の小さな身体に大きなベースを抱えるスージーが愛らしい。初めてベースを弾いた時に、「一生の仕事にしよう!」と決意したスージー。当時からプロ根性と覚悟があったのだろう。時代はパンクロック誕生前夜。 カソリック教徒の姉妹が歌うお酒の曲は、地元ではウケたという。

軌道に乗った4人姉妹のガールズバンド。皆、覚悟を決めてスージーも学校を辞め、ツアーに出た。
「もう普通の生活は捨てたの。 一晩に5ステージをこなしたんだから!普通の女の子とは違う。 オーマイガー! もう戻れないと思った」
当時を振り返るスージー。地元の友だちにツアーの成功を伝えても、ツレない態度……。若者の多くは、デトロイトを脱出したがっていた。いち早く遂げたスージーに、嫉妬と羨望、反感を抱いたのだ。

スージーを看板に、NYのマーキュリーレコードと契約するも、デトロイト特有の風土からか、女の子は一時の腰掛けと思われ、セールスに熱が入らず売れない日々が続く。そんな時、英国から来たジ・アニマルズなどを手掛けたやり手プロデューサー、ミッキー・モストの目に留まる。
「モータウンへ来てアルバムを作らない?」
が、モストが興味を示したのはスージーのソロ活動だった。姉妹との軋轢は決定的なものとなってしまう。姉妹を出し抜いた、と父から怒りをかうことに……。非常な世界だ。知り合いさえもいないロンドンで、スージーは孤独に耐えた。
「毎日泣いて寝たけど、 帰ろうとは思わなかった。売れるまでは...ってね!」

ブギーな曲を引っさげ、スレイドのツアーの前座を務める。広い会場でもスージーは怖じけずかなかった。モストの、甘えを許さない姿勢、「飛行機を降りる時はレザースーツを着てろ」といったイメージコントロールが奏功し、ユーライアヒープ、アリス・クーパーとワールドツアー。 72日間で65都市を回るハードな日程ながら、毎晩ソールドアウト。遂にローリング・ストーン誌の表紙を飾った。
それでも、音楽面では保守的な地元には不評。誰より認めて欲しい家族からは演奏にダメ出しするテープが届く。軋轢の根は深く、米国では時代が追いつかなかったのだろう。

熱狂的ファンのいるオーストラリアに渡り、歌手、作詞・作曲家、ベーシスト、作家、女優、ラジオパーソナリティ、詩人など幅広く活動し、50年以上を経た今でもバリバリ現役のスージー。ケンブリッジ大学の名誉博士号を受賞した。生涯、灯し続けたロックへの愛情は才能の滋養となり、自信に漲るスージーの表情からは、覚悟を決めた先人の潔さが伝わってくる。還暦世代に勇気と希望を与えてくれる作品だ。
(大瀧幸恵)


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2019 年/オーストラリア/104 分/ビスタ/ステレオ
提供:ジェットリンク
配給:アンプラグド
© The Acme Film Company Pty Ltd 2019
★2022年5月6日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマンpトラストシネマ渋谷ほか全国公開


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