ローレル・キャニオン 夢のウェスト・コースト・ロック (原題:Laurel Canyon A Place In Time)

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監督:アリソン・エルウッド
撮影:サミュエル・ペインター
作曲:ポール・パイロット
製作総指揮:アレックス・ギブニー、フランク・マーシャル
出演:ヘンリー・ディルツ、ジャクソン・ブラウン、ジョニ・ミッチェル、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、
スティーヴン・スティルス、ニール・ヤング、ロジャー・マッギン、ドン・ヘンリー

アメリカ・ロサンゼルス中心部付近に位置する山岳地帯ローレル・キャニオン。1960年代から1970年代、ザ・バーズやママス&パパス、ジャクソン・ブラウンといった西海岸を拠点とするミュージシャンたちが、その地に移り住み、数々の名曲を生み出した。

タートルズの「ハッピー・トゥゲザー」で至福の幕開け♪ザ・バーズ、ママス&パパス、CSN&Y、ジョニ・ミッチェル、ジャクソン・ブラウン、イーグルス、バッファロー・スプリングフィールド、フライング・ブリトー・ブラザーズ、ラヴ、ドアーズ、まさかのモンキーズまで!みんなみんないる〜!
次々と繰り出される‘60年代〜‘70年に時代を彩り、”世界に変革”を起こしたミュージシャンたちの映像。甘酸っぱい想い出が蘇り、胸がいっぱいになってしまう。が、あまりにも面白過ぎる逸話が続々と披露されるため、想い出に浸る暇はなく、メモを取る手が忙しかった。

壮大な文脈で綴られる米国西海岸ロック史観。「トキワ荘物語」ならぬ「ローレル・キャニオン物語」である。音楽性も出身地も年代も異なる若者たち、ただ音楽に夢を持つ者たちが集い、奇跡のような共生が成り立っていた聖地の美しき記録。10年に及ぶ軌跡を追ったドキュメンタリーである。

なぜ、ハリウッドにほど近い素朴な山岳地帯、それもコヨーテがうろつく程のワイルドな大地へ、列挙した数多くのミュージシャンが引き寄せられるように移り住んだのか?魔法の如く数々の名曲が生み出されたのは何故か?ミュージシャンたちと家族同然だった2人の写真家による貴重なオフショット。アーカイブ映像が、観客を‘60〜‘70年代のただ中にタイムスリップさせてくれる。観客自身も当時の「愛と夢の10年間」を体感できる仕組みだ。
卑近な例で恐縮ながら、ブリティッシュロック一辺倒だった英国贔屓でも、この時期ばかりはウェストコースト・ロックを追い続けていた。

‘65年、ボブ・ディランの作った「ミスター・タンブリン・マン」が大ヒットして引越してきた、と語る バーズのクリス・ヒルマン(昔は目が覚める程の美青年だったのに!)。次いで、デビッド・クロスビー、ロジャー・マッギンなどバーズのメンバーが移ってきた。 ボブ・ディランが歌うと音程を外す(確かに(笑))、しかも一発録りなのでお蔵入りしてしまった「ミスター・タンブリン・マン」を、ヒット曲が必要だったバーズが豊かなハーモニーで歌ったところ、バーズの編曲をボブ・ディラン自身が感動し、クラブ「トルバドゥール」でも行列のできる人気バンドになった、という逸話が楽しい♪

今では信じ難いが、当時はフォークソングと比べ、エレキギターは「ガキの音楽」と見下されていたらしい。バーズは、フォークの温かさと、ロックのリズム感、豊かなハーモニーが持ち味のバンドだった。新しいジャンルの革新者として、誰もがバーズに憧れ、コピーしたという。 ラブのメンバーも家を行き来し、夜中まで一緒に演奏した。リトル・リチャードも真似したってホント?!

バーズに影響を受けたバッファロー・スプリングフィールドのリッチー・フューレイが「あれを聴いてカリフォルニアに行こうと思った」と語る。 白黒のTV番組で自己紹介するニール・ヤングが初々しい。 スティーブン・スティルスも若い若い。ニール・ヤングが歌う「ミスターソウル」は躍動感のあるギター演奏、力強い歌声は若さが持つ甘さを感じさせない。

強烈なカリスマのジム・モリソン率いるドアーズ(映像最高!)の登場でクラブシーンは一変したという。エレクトラレコードはドアーズを推すために、ラブの予算を充てたほど売り出しに懸命だった。商業主義の台頭が始まったのか、ここでモンキーズが登場。人工的にキャラクター重視で集められた4人をミュージシャンと呼ぶには抵抗があるが、楽曲には恵まれ、多くのスタンダード・ナンバーを持つ。彼らの番組が始まると、キャニオンの生活が大々的に報道されるようになる。サンセット大通りには、ますます若者たちが集うようになり、市警が取締り逮捕を巡って抗議運動が起こる。

ママス&パパスが歌う「夢のカリフォルニア」に影響を受けた人は多いのではないだろうか?ママキャスは、英国から渡米したばかりで知り合いのいないエリック・クラプトンや、ホリーズの活動が行き詰っていた英国人のグラハム・ナッシュを自宅に誘うなど求心的な役割を果たしていた。
一方、バーズでは自身の曲が採用されないクロスビーがロジャー・マッギンと対立し脱退。ジョニ・ミッチェルと出会う。この出逢いから、CSN&Yの結成〜ウッドストック〜ジョニとナッシュ「僕達の家」が生まれるまでの一連の流れは、本作で最もウットリする部分だ。同時に、キャニオンの蜜月時代ともいえる。

‘69年8月には、シャロン・テート殺害事件が起こり、キャニオンの平和も終焉を迎える。同年、ローリング・ストーンズやCSN&Yらが出演したオルタモントフェスでは、観客同士の殺害事件が...。ロックシーンは血と死の匂い、ドラッグや狂気のイメージがまとわりつくようになる。
‘70年代前半以降、ジャクソン・ブラウンらのシンガーソングライター、イーグルス結成のきっかけを作ったリンダ・ロンシュタット、ポコなどの活躍はあるものの、音楽ビジネスの巨大産業化と競争社会の波により、ミュージシャンたちはキャニオンを去って行く...。

エンディング、バーズの「ターン・ターン・ターン」を聴きながら胸が打たれた。♪季節は巡る 地球上は巡る ♪キャニオンにも新しい時代が巡って来るに違いない。
(大瀧幸恵)

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2020 年/アメリカ/120 分/ビスタ/ステレオ
提供:ジェットリンク
配給:アンプラグド
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★2022年5月6日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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