生きててよかった

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監督・脚本:鈴木太一
アクション監督:園村健介
エンディングテーマ:betcover!! 『NOBORU』(cutting edge)
出演:木幡竜、鎌滝恵利 、今野浩喜 、栁俊太郎 、長井短、黒田大輔 、渡辺紘文 、永井マリア 、木村知貴、松本亮、 三元雅芸、銀粉蝶、 火野正平

ボクサーの楠木創太(木幡竜)は長年の闘いによる無理がたたり、ドクターストップがかかって引退を余儀なくされる。恋人と結婚した創太は、仕事に就くものの、何をしてもうまくいかなかった。ある日、大金を賭けて闘う地下格闘技へのオファーが創太に舞い込む。闘いの世界に戻ろうとする創太の胸のうちに、封印していた興奮がよみがえってくる。

”最狂”の創り手たちが、”最強”にして圧巻のリアリティを齎した映画である。何しろ、「本当に殴ってくれ!」という俳優に、「その本気をもう1テイク!」と指示するアクション監督なのだから…。死んだらどうする??

闇が支配する世界に響くのは、鈍いパンチの音。微かに聞こえる荒い息、細かなステップ。リズムを刻んでいるのか、ヨレヨレの脚と青息吐息なのか?シンプルな空間で起こる埋められない空隙が、そのまま矛盾に満ちた社会の縮図となるようだ。
主演は、元プロボクサーの木幡竜。木幡が演じる楠木創太は、長年の闘いから身体を蝕み、ドクターストップで強制的に引退させられた男。社会に適合せず、心は萎えるも一度覚えたアドレナリンが沸き立つ思いよ、もう一度!と地下格闘技の渦へと呑み込まれて行く。

闘いに取り憑かれた愚直な男の狂気は、欲望が蠢く地下格闘技の世界で、吉と出るか凶と出るか?よじれた存在としてのリアルの哀切さ、悲痛なまでの狂おしさを体現した木幡竜は、本作に関して名優だ。傷だらけ、汗と血膿に塗れた顔は抗い難い芳香を放つ。木幡が成功を収めてきた中国アクション映画界から見ると、日本では若いアイドルが付け焼刃の格闘家に扮する生ぬるい世界に見えよう。
否定しない。ボクサーを主題にしたハリウッド、漫画原作(名作!)の邦画が相次いで公開された年には、主役の身体作りの歴然たる違いに呆れてしまった程だ。

昨今は、俳優がアクション監督を務めるなど、邦画界のアクション映画に対する関わりは変容の兆しを見せる。が、本作の”本物感”を超える作品は暫く出てこないのではないか。基本的にワンカット長回し撮影が齎す躍動感は、ボクシング・格闘技の試合をその場で目撃しているような迫力だ。現実の観戦では細かなカットや切返し切返しになどなったりしない。ダンスシーンでもそうだが、カット割りの度に意識も呼吸も途切れてしまう。動きの連続性は重要なのだ。

木幡、アクション監督の園村健介(『ベイビーわるきゅーれ』など)(21)、監督・脚本の鈴木太一、撮影を担った高木風太とも、その点はよく心得ている。現代的にショーアップされたハリウッド的スペクタクルが求められる時代に、決してスタイリッシュとはいえない本作は仄かな輝きを放つ。危険な力の扱いに葛藤したスタッフもいたことだろう。強い結束の製作陣と、何度も書き直し磨き上げた脚本をものした鈴木監督、実現に力を尽くした木幡らに敬意を表したい。

元々が低体脂肪率にも関わらず、10キロ減量し、撮影中に2度も失神したという木幡のストイックさには驚くばかりだ。まさに“生きててよかった”!ぜひ映画館で対面して欲しい。
(大瀧幸恵)


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2022年製作/119分/PG12/日本
特別協力:大橋ボクシングジム
制作プロダクション:オフィスアッシュ 、ハピネットファントム・スタジオ
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/ikiteteyokatta
公式 Twitter:https@ikitete_movie
★2022年5月13日(金)より、全国公開


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