エコー・イン・ザ・キャニオン (原題:Echo in the Canyon)

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監督:アンドリュー・スレイター
脚本:アンドリュー・スレイター、エリック・バーレット
出演:トム・ペティ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、エリック・クラプトン、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、ジャクソン・ブラウン、フィオナ・アップル、ベック、ノラ・ジョーンズ、キャット・パワー、ジェイコブ・ディラン

ハリウッドの繁華街から車で5分ほどの場所にあるローレル・キャニオン。1960年代半ばころからそこに大勢のミュージシャンたちが移り住むようになり、互いに刺激を与え合う中でウェストコースト・ロックが形づくられていく。自身もバンドやソロで活動するジェイコブ・ディランがトム・ペティ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、エリック・クラプトンらにインタビューする。

先日ご紹介した『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』と本作を続けて観れば、より楽しく鑑賞する上での深みが増すかもしれない。『ローレル・キャニオン〜』と同じく、‘60年代に活躍したウエストコーストサウンドの超レジェンドたちが続々と登場。貴重なアーカイブ映像や楽曲が流れ、同世代人には郷愁を誘ってくれる。

リンゴ・スター、ブライアン・ウィルソン、ロジャー・マッギン、ジャクソン・ブラウン、ミシェル・フィリップス、トム・ペティ、エリック・クラプトン、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュらが、当時の音楽制作秘話や、仲間との交流話、当事者でしか知り得ないネタを次々に披露してくれるのだから面白いことこのうえない!

たとえ老けた姿になっていようとも(?)元気に語ってくれる’大物ミュージシャンたちからは、‘60年代に共有した空気、時代の熱気が感じられ、若かったあの頃へタイムスリップできる。ママキャスほどではないが(笑)似た体型になったミシェル・フィリップスは、名曲「カリフォルニア・ドリーム」が生まれた時の逸話を語る。
「あの頃の音楽業界の中心はNYだったの。私たちは結婚したばかりだし帰りたかった。NYでレコード会社との契約を待っている冬のホテルで、ジョンが歌い出したのよ」
“グループ内不倫”でママス&パパスを解雇されてしまったミシェルだが、ライブ映像を見ると、4人の声はこれぞカリフォルニア・ハーモニーを感じさせてくれる。楽曲を聴いて過ごした日々の、あの鮮やかな想い出、多幸感は褪せることはない。

『ローレル・キャニオン〜』と異なる喜びは、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンをフューチャーしている点。
「カリフォルニアガールズの歌はバッハの影響を受けているんだ。そしてチャック・ベリーからハーモニー とロックンロールを学んだ」
ブライアンは、ビートルズのプロデューサーであり、作曲家、アレンジャー、ミュージシャンとして数え切れないほどの業績を誇るサー・ジョージ・マーティンから、クラシック音楽の話法を教わったのだという。

ミュージシャンたちは口々に、ビーチボーイズのアルバム「ペット・サウンズ」が如何に偉大だったかを語る。そのブライアンは、ビートルズの「ラバー・ソウル」に影響を受け「ペット・サウンズ」をリリースし、今度はビートルズが「ペット・サウンズ」にインスパイアされて、「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を発表するのだ。
初期のビートルズはザ・バーズからも感化されたとリンゴ・スターが証言すれば、クラプトンもザ・バーズ、ビーチ・ボーイズから詩的な影響を受け、「レット・イット・レイン」は、バッファロー・スプリングフィールドの「クエスチョンズ」からのインスパイアだと伝ええる。インターネットなどない時代の‘60年代でも、ミュージックシーンでは易々と国を越え、刺激を受け合い、新たなカルチャーを生み出していたのだな、と思うと感慨深い。

ちょっとゴシッピーな逸話が終盤に登場する。ゴフィン&キャロルがリリースした“3人の結婚の歌”が物議を醸した。倫理的な問題でミュージシャン仲間でも賛否があったらしい。キリスト教的倫理観からくるのだろう。バーズのロジャー・マッギンや、CSN&Yのグラハム・ナッシュは明らかに嫌そうな口調で語る。デビッド・ クロスビーは、「僕がバーズを辞めたのはそれが理由じゃない」とカメラに向かって宣言する様子は愉快だ。
ミシェル・フィリップスは、
「男女混合のグループは色恋沙汰がつきものよ。ジェファーソンエアプレインや フリートウッドマックとか、みんなそう。ジョンも デリーも嫉妬してたわ。私が浮気症だからね」
事もなげに語る姿はカッコいい(笑)

さて、大物ミュージシャンたちからこのように興味深く面白すぎる逸話を引き出し、且つ次世代のノラ・ジョーンズやベック、 レジーナ・スペクター 、キャット・パワー、フィオナ・アップルらを率い、2015年にオルフェウスシアターミュージアムで開かれた「60年代に戻ろうぜ!」フェスを主催したのは、ボブ・ディランの息子ジェイコブ・ディランである。本作のホスト役を務め、大物たちにも臆することなく、当時のバーズやバッファロー・スプリングフィールド、ビーチボーイズの楽曲までをデュエットやハーモニーを奏で、歌いこなしてしまうジェイコブ・ディラン。何と器用な才人なのだろう!
偉大な父を持つと、重圧で道を逸れる二世もいる中、ビジネスとして成功させる手腕は大したものだ。’60年代世代としては、懐かしさと共に、ジェイコブ・ディランという“発見”をしたことも喜びであった。
(大瀧幸恵)


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2018 年/アメリカ//ビスタ/83 分/5.1ch
配給・宣伝: アンプラグド
© 2019 Echo In The Canyon LLC ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://unpfilm.com/eic/
★2022年5月27日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


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