ニューオーダー (原題:NUEVO ORDEN 英題:NEW ORDER)

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監督・脚本:ミシェル・フランコ
出演:ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド、ディエゴ・ボネータ、モニカ・デル・カルメン

マリアン(ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド)が住む豪邸には名士たちが集い、彼女たちの結婚パーティーが開かれていた。一方、そのすぐそばの通りでは広がり続ける貧富の差への抗議行動が行われ、人々が暴徒と化す。ついにパーティー会場にも暴徒が押し寄せ、晴れの舞台は一転して殺りくと略奪の場となる。マリアンは難を逃れたものの悪夢は始まったばかりだった。

とてつもない衝撃作がメキシコから届いた。不意を突くエンディングの後も戦慄のあまり震えが止まらない!エンドクレジットで 軍国主義・好戦的な演奏後に続く無音状態が恐怖を倍増させる。ここには、見慣れた物語のセオリーは一切通用しない。予定調和といった生優しさががないのだ。観客が主役と認め出した人物も、善意の登場人物にも容赦はない。 徹底した“容赦の無さ“に慄く。主要人物が助かる、 美男美女が救われる類のドラマツルギーはない。つまり無原則的なのだ。

このクーデターが何処から発生したのか?観客には分からない。 主体は軍か?労働者なのか?説明がないまま、地獄へと引き摺り出され、登場人物たちと一緒に訳が分からず目を見開いたまま、恐怖を体感する。そこには金持ちも貧乏人もない。新体制がどういう政府なのか、どうなって行くのか、起承転結による“完結“は訪れない。
あるのは、荒い肌触りの恐怖政治が、メキシコに関わらず如何なる国でも起こり得ると感じさせるリアリティである。戦慄が身体を支配し続け、それは数日経っても去らないほどに強烈な体験となって残る。

2012年『⽗の秘密』でカンヌ国際映画祭「ある視点」部⾨でグランプリを受賞後も、『母という名の女』『或る終焉』とコンスタントに秀作を撮り続けてきたミシェル・フランコ監督の術中に見事に嵌ってしまった。

人種、貧富、性別…、分断や格差が進むパンデミックの世界を現実的に表現する最も適切な方法を用い、ドラマ性とドキュメンタリータッチの融合が絶妙の均衡を保っている。ヴェネチア国際映画祭で審査員大賞など2冠を受賞しながらも、各国の映画祭で激しい賛否両論、物議を醸したのも納得の傑作だ。
監督は、論議を呼ぶことはもちろん折り込み済みなのだろう。正義の刃を振り翳すよりも、本作のような手法は効果があると分かった上での提示。問題提起という語彙が生ぬるく聞こえてしまうほど、場面ごとのショットの強度に圧倒される。

冒頭に示される「死者だけが戦争を見た」というオマール・ロドリゲスによる言葉の含意。ピカソの「ゲルニカ」を想起させる壁画。荘厳な劇伴。全裸で佇む女、ごく短いカットの連続が緊迫感を煽る。病室から避難していく病人たち、外界で起こっているらしい騒ぎ、混乱の予兆。
一転して華やかな結婚式、楽しげにダンスを踊る人々、幸せの絶頂にある2人がキスを交わす…。序盤のスムーズな流れに乗り、観客はあたかも眼前で起きている出来事に飲み込まれていく。

が、本作の魅力は筋書きではない。生まれるべくして必然の作品に、一刻も早く出会い、衝撃を体感してほしい!と言わざるを得ない 。
(大瀧幸恵)


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2020 年/メキシコ・フランス/スペイン語/86 分/シネマスコープ/5.1ch
配給:クロックワークス/【映倫】49220/PG12
© 2020 Lo que algunos soñaron S.A. de C.V., Les Films dʼIci
公式サイト:https://klockworx-v.com/neworder/
★2022年6月4日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開

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