製作:ジョニー・デップ
監督:ジュリアン・テンプル(『ビギナーズ』、『セックス・ピストルズ/グレート・ロックンロール・スウィンドル』)
出演:シェイン・マガウアン、ジョニー・デップ、ボビー・ギレスピー、モーリス・マガウアン、シヴォーン・マガウアン、ヴィクトリア・メアリー・クラーク、ジェリー・アダムズ、ボノ他
アイリッシュ・パンク(ケルト音楽とパンク・ロックが融合したジャンル)の代表的存在とされ、クリスマスソング「ニューヨークの夢」等のヒット曲で知られる、英パンク・バンド「ザ・ポーグズ(The Pogues)」のフロントマン、シェイン・マガウアンの人生に迫ったドキュメンタリー。
昔から「ザ・ポーグス」のサウンド、シェイン・マガウアンが絞り出すヴォーカルを聴く度に、何か懐かしい感じを覚えていた。同世代だからということではない。平たく言えば、ケルトの伝統的な音楽と、壊し屋であるパンク・ロックが融合したアイリッシュ・パンクのジャンルに類するのだが、メロディラインが哀切で優しく響く。何だか日本の歌謡曲調なのである。
奏でる楽器はバンジョーやフィドル、アコーディオン、バウロン、そしてアイルランドの国章にもなっているハープといった素朴な物ばかりだ。抒情的な詩歌もあるけれど、シェインの作り出す楽曲はけっこう過激!本ドキュメンタリーで描かれるシェインその人の素顔は更にどうしようもないキャラクターだった!
「飲ませなきゃ喋らないよ」
自身のドキュメンタリー製作には、シェインの証言は不可欠。笑いながら飲酒を許す冒頭の場面が可笑しい。
クリスマスに生まれたシェイン。ダブリン生まれの父、元歌手でトップモデル、アイリッシュダンサーでもあった母、牧場を営む叔父叔母たちに囲まれて育った少年期。夜毎、納屋で繰り広げられるどんちゃん騒ぎ。シェインは3歳の頃から歌わされていたという。4〜5歳でウィスキーやビール、煙草の味を覚え、6歳からはもう常習(!)。アイリッシュ文化の音楽、ダンス、お酒を浴びるように育ったのだ。
至福の子ども時代だとシェイン自身も語っている。その時代は、イラストレーターのラルフ・ステッドマンによるアニメーションで再現され、温かくユーモラスな空気を醸している。だが、アイルランドを襲った大飢饉の余波は続いており、雇用の機会はない、と判断した父母、姉妹と共にロンドンへ移住。
「ロンドンの印象?話題を変えようよ。 イングランドは嫌いだ 」
アイルランドの農場生活が恋しいあまり、6歳で神経病んだという。以降はドラッグが手放せなくなった。
文才があり、ロンドンの名門ウェストミンスター校に入るも、ドラッグ所持で退学になったシェインは、ストリートへ飛び出して行く。時は‘82年、パンクロック全盛の時代である。セックス・ピストルズを見た衝撃がシェインの人生を変えた。この辺りから数多の武勇伝が続く(幼児での飲酒・喫煙癖も十分に超ド級逸話だが(笑))。夜な夜なクラブに出没してはギグに飛び入り。アイリッシュパンク魂を爆発させる。
ある夜、アルコールとドラッグをキメて女の子の腕を噛んでいたら、相手はシェインの耳を噛みちぎる!血だらけになった姿が新聞に大きく掲載され、一躍クラブシーンの有名人になってしまう。記事を見た母の、「自分の居場所を見つけたのね。良かった」という受け止め方もぶっ飛び級だ。
面白い逸話や、「ニューヨークの夢」をはじめとする名曲の数々は、映画を観て味わってほしい。30年來の親友であり、本作の製作者ジョニー・デップとの泥酔対談も楽しい。難を言えば、130分は冗長かもしれない。MTVや音楽映画の名匠ジュリアン・テンプル監督なのだから、短いショットを繋ぎ、テンポの良いタイトな作品にできたのではないか。
(大瀧幸恵)
アメリカ・イギリス・アイルランド/130分/英語/字幕監修:ピーター・バラカン R18+
© The Gift Film Limited 2020
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/shane/
★2022年6月3日(金)より、 渋谷シネクイントほか全国順次公開
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