ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行 (原題:The Story of Film : A New Generation)

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監督&ナレーション:マイク・カズンズ『オーソン・ウェルズの目』(18) 
出演:アニエス・ヴァルダ、チャールズ・バーネット、アリ・アスター、シャンタル・アケルマン

テクノロジーの進化や社会の変化とともに、2010年からの約10年間で映画を取り巻く環境や表現方法は大きく変わった。世界を席巻した『ジョーカー』と『アナと雪の女王』というまったく異なる作品には、共通のテーマが潜んでいるとマーク・カズンズ監督は指摘する。斬新な身体表現や独特の時間感覚、最先端デジタル技術の使用など、この時代の映画に見られるさまざまな表現方法にもスポットを当てる。

約1000本もの映画を取り上げたTVシリーズ「ストーリー・オブ・フィルム」(‘11年)全15話を全て観ていたため、マーク・カズンズ監督の話法には馴染んでおり、独特な抑制的発声のナレーションが懐かしかった。現在も配信中なので、本作と併せて観ることをお薦めしたい。

”シネフィル”を自称する身でも、カズンズ監督の映画的教養深度には兜を脱がざるを得ない。北アイルランド・ベルファストで生まれたフィルムメーカー、そして作家でもあるカズンズが、成育歴に於いてどのような映画を観てきたか、どういった切り口で類型し、脳内に詰まった1万6000本以上の映画を整理しているか?よく分かる1本である。

英語を母国語とするカズンズだが、作品選定は英語言語に偏らない。氏も「インド、アラブ、アフリカには学ぶべきことがたくさんあった」、またTwitterのフォロワーは、インドやアラブ諸国、アフリカ、エチオピア、南アメリカ、日本、中国と広範囲。「ぼくは、いつも彼らに『みんなの知識を分けてほしい』とお願いしているんだ」と語っている。
こうした謙虚な姿勢、そして知名度や興収〜予算の多寡には関係なく、あくまで公平性に徹した点が素晴らしい。邦画にも造詣が深く、本作では香川京子さんが冒頭に紹介されるのは日本人として嬉しかった!

カズンズの転機となったTVシリーズ放映から10年。本作製作に当たり、カズンズは『リヴァイアサン』のように、新たな試みに挑戦している作品を集めてリスト化したそうだ。そして、「自分が知らないことは?」という重要な問いに立ち戻ったという。多様性に富み、知的好奇心を刺激してくれる作品群の選定には納得である。どんな映画が紹介されているか、敢えて語るのを止めよう。ぜひ自身の目でご覧頂き、映画から多くの”発見”をして欲しい。

GoProやスマートフォン、VRといった次世代メディアが映画表現に与えた影響、配信事業の台頭、パンデミックが及ぼした喪失感、今後の映画界の展望まで言及したカズンズの知見は、必見に値する。10年前と比べ、洪水のように映画作品が押し寄せる今、キュレーター的な役割をカズンズに見出すことができよう。

当然ながらカズンズには遠く及ばないものの、”シネフィル”の末端にいる者として、カズンズによる次の言葉を紹介したい。
「ぼくの力の源、進むべき方向を教えてくれる星座のひとつは映画なんだ」。
(大瀧幸恵)


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2021年/イギリス/英語/167分/ビスタ/5.1ch/カラー/
配給:JAIHO
(C) Story of Film Ltd 2020
公式サイト:https://storyoffilm-japan.com  Twitter:@JaihoTheatre
★2020年6月10日(金)より、新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー

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