監督・製作:ブリランテ・メンドーサ
脚本:ホニー・アリピオ
撮影:ジョシュア・A・レイレス
プロデューサー:山下貴裕、クリスマ・マクラン・ファジャード、尚玄
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:尚玄、ロニー・ラザロ、ビューティー・ゴンザレス、南果歩
沖縄で母親(南果歩)と生活している津山尚生(尚玄)は、プロボクサーを目指して日々練習に励んでいた。幼いころに右膝下を失った義足のボクサーである彼は、日本ボクシング委員会にプロライセンスを申請するものの、身体条件の規定にそぐわないことを理由に却下される。夢を諦め切れない尚生は、条件さえクリアすればプロとして活躍できるフィリピンに向かう。
この映画には嘘がない。フィクションという暗黙知を持ってしても、本作には真実が詰まっていると言いきれる。滾る汗、獲物を狙う豹のような瞳(ボクサーは瞬きをしない)、軽快なステップ、重く俊敏なパンチ、鋼を思わせる肉体…。ボクサー役の出演者たちは本物のボクサーよりもボクサーらしく見える。俳優たちをボクサーたらしめたのは、3台の手持ちカメラにより対象にぐいぐいと迫る撮影法、台本を渡さず簡単なメモだけ、リハーサルなしで場面に集中させる、役を”生ききって”いなければ達成しないドキュメントタッチのブリランテ ・メンドー サ監督話法に依拠するものだろう。
ドキュメンタリーのように感じるのは、本作が実話を基にしているからではない。『ローサは密告された』 『キナタイマニ ラ・アンダーグラウンド』 など、フィリピン庶民の逞しさ、力強さを描いてきたメンドー サ監督が初のスポ根ドラマに取り組んだ証左なのだ。根性と気迫で命懸けのスポーツに挑む主役・ナオの身体からは、闘志が立ち昇ってくるのが見える。
邦題には”義足”という説明が付いているが、ハンディを負ったボクサーとしての部分を強調する意思は毛頭ないようだ。本作からは見事に”湿度”が抜かれている。義足でボクサーを目指すまでには筆舌に尽くし難い苦悩や哀感、慟哭の日々があっただろう。その過程だけで1本の映画ができてしまいそうだ。が、エンディングを観て、母親とのエピソードが大幅にカットされたことがている分かる。親子の情愛といった感傷の押しつけを断ち切り、ボクシング映画に徹した潔さがメ ンドーサ監督らしい。
ボクシング映画を好きな人なら、冒頭から本物感が伝わるだろう。よくある対戦相手の顔アップ、切り返し切り返しといった”嘘”のショットはない。基本的にワンカット長回しだ。カット割りの騙しは利かない。俳優はパンチをまともに受けている。ふらついて倒れる様も真実だ。その迫真力たるや半端ではない。
主役、対戦相手、双方のセコンド、応援する観衆、何れもの間で異なる叙事が行われている点を均衡に描いている点も画期的だ。
自ら企画し製作にも名を連ね、主演を務めた尚玄と山下貴裕プロデューサーの情熱が導き、稀な純度で結晶化した映画愛。粋に感じて監督を請けたメ ンドーサら、スタッフ・キャストに敬意を表したい力作である。
(大瀧幸恵)
2021年/日本・フィリピン/日本語・英語・タガログ語/カラー/ビスタ/5.1ch/110分/
配給:彩プロ
© 2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会
公式サイト:https://gisokuboxer.ayapro.ne.jp/
★2020年6月10日(金)より、全国公開
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