恋は光

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脚本・監督:小林啓一
原作:秋★枝
音楽:野村卓史
劇中歌:She & Him
出演:神尾楓珠、西野七瀬、平祐奈 馬場ふみか、伊東蒼 宮下咲 花岡咲 森日菜美 山田愛奈 田中壮太郎

大学生の西条(神尾楓珠)は、恋する女性が光って見えてしまう特異体質を持つために恋愛を遠ざけてきたが、「恋というものを知りたい」という東雲(平祐奈)に一目ぼれしたことで、彼女と恋の定義について意見を交わす交換日記を始める。そんな二人の様子に、長らく彼に片思いしている幼なじみの北代(西野七瀬)は心中穏やかでいられない。一方、他人の恋人を欲しがる宿木(馬場ふみか)が、西条を北代の恋人と勘違いして猛アタックを開始。やがて宿木と北代も交換日記に加わり、4人で恋の定義を考え始める。

恋するキラキラ、恋の光…といった、日本ではすっかり定着した語彙を逆手にとったトリッキーな仕掛け。コミック原作の恋愛映画といえども侮れない。‘14年『ぼんとリンちゃん』が秀逸だった小林啓一脚本・監督作。テレ東「ASAYAN」のディレクターを経て、PVやCMを手掛てきただけあり、透明感のある丁寧な絵造りに、禅問答ともいえる哲学・観念的な台詞の応酬は、他の甘〜い一辺倒のラブストーリーとは一線を画す。

冒頭の、頭にドリンクを浴びせられる女子大生をハイスピードカメラで撮るショット。無の表情を貫き、「暑いからちょうど良かった」と言い放つ女子を周囲は笑って見ている。インパクトのある幕開けだ。後に、馬場ふみか演じる宿木の性癖が明らかになる伏線として機能しているのが面白い。この冒頭ショットは、最初から小林監督が狙っていたという。

ビジュアルでの”掴み”に成功した後は喋り倒す戦法だ。神尾楓珠、西野七瀬、平祐奈ら若手俳優が膨大な台詞を捌いてみせる。それも、「恋の定義」やら「人を好きになるメカニズムの解析」「学習機能について」「再定義」などなど、偉人、文人の言葉を用いてディスカッションを繰り広げる展開へと移行するのだ。

息を詰めて応酬劇を見守っていると、画面は緩く長閑な田舎の風景へ。岡山近辺で撮影したと思しき、ロケ地の背景が、硬質な言葉群を柔らかな印象へと中和する。これも小林監督の狙った効果か…。神尾楓珠の万年床部屋は昭和漫画風。祖母の古着ばかりを着ている平祐奈が住む家は、戦前の木造建築そのままだ。向田邦子のドラマを見ているようなノスタルジーを感じさせてくれる。
妙に洒落たモダンな設計の大学校舎との対比が興味深い。

西条、東雲、北代…という風に、主要登場人物の名前が「東西南北」を示しているのは、多様な意見、思考回路を各方角から眺めよ、との作者による意図かもしれない。同世代でも、ここまで異なる価値観を有しているものなのか…。若者を再定義したくなる「(脳内)アハ体験」をした気分だ。

”図書館や書籍の似合う”若者を演じた神尾楓珠、平祐奈の好演が清々しいが、恋模様とは一歩外れた場所で才気を発揮したのは、伊東蒼。昨年の『空白』、今年は『さがす』に於いて大人を圧倒する存在感を残した伊東が、本作でも隠れたキーパーソンとして”光る”役割を放っている。

キラキラのギミックを抑えめに表現し、劇中歌とエンディングに、『(500)日のサマー』のズーイ―・デシャネルをフューチャーした音楽ユニット「She & Him」の楽曲を使用した監督。とかく、タイアップ曲が流れがちな邦画界に於いて、そのセンスと決断が一点眩しい”光”である。
(大瀧幸恵)


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2022年製作/111分/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ、KADOKAWA
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/koihahikari/  
Twitter:@koihahikarimv 
★2022年6月17日(金)より、全国公開

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