場所:パリ・オペラ座 ガルニエ宮
振付:ジェローム・ロビンズ
音楽:ワレリー・オブシャニコフ
演奏:パリ・オペラ座管弦楽団
芸術監督:オーレリ・デュポン
ジェローム・ロビンズにとって、パリ・オペラ座バレエ団はニューヨーク・シティ・バレエ団に次ぐ第二の故郷でした。彼を記念してパリ・オペラ座で行われた公演では、彼のインスピレーションの源となった無限の多様性と、彼の稀有な才能が舞台上で発揮された作品が結集しました。大規模な「グラス・ピーシズ」のエネルギー、「牧神の午後」や「ダンス組曲」の親密な甘さなど、音楽に身を委ね流れに乗ることができる秀逸な振付を堪能できます。一時代を画した著名なバレエ作品『ファンシー・フリー』はロビンズの才能の新たな一面も見せてくれます。
バレエといえば、パリ・オペラ座バレエ団!といわれるほど、その歴史とレベルの高さは世界最高峰に位置する。「ウエスト・サイド物語」の振付師として、バレエファンならずともその名を知られるジェローム・ロビンズも世界最高峰である。ニューヨーク・シティ・バレエ団のほか、パリ・オペラ座バレエ団とも縁の深かったロビンズを記念し、4つの演目を収録した本作は、ロビンズの豊かで多様な才能を知る絶好の1本だろう。
「ファンシー・フリー」(原題:Fancy Free)
音楽:レナード・バーンスタイン
振付:ジェローム・ロビンズ
装置:オリヴァー・スミス
衣裳:カーミット・ラヴ
照明:ジェニファー・ティプトン
出演:エレオノーラ・アバニャート/アリス・ルナヴァン/ステファン・ビュリオン/カール・パケット/フランソワ・アリュ/オーレリア・ベレ/アレクサンドル・カルニアト
“水兵さん”として登場するフランソワ・アリュは、この4月エトワールに任命されたばかり。彼の超絶技巧、豊かな表現力が楽しめる演目。水兵たちが織りなすアンサンブル演技、躍動感溢れる踊りに圧倒される。リズミカルで緩急があるユーモラスな振り付けは、ハリウッド映画のフランク・シナトラを思い出して楽しいことこの上ない。
ソロ演技も、それぞれの個性を活かして、アクロバティック、ストーリー性、力強さと、メリハリをつけた踊りがバーンスタインの軽妙な楽興とマッチして素晴らしい。そういえば、最近はバレエでもコンテンポラリーを観ることが多かったため、このような踊る楽しさを全面に押し出した作品は新鮮だ。バレリーナたちが纏う衣装も、往年のハリウッド全盛期を思わせ、差し色が効果的である。
「ダンス組曲」(原題:A Suite of Dances)
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
振付:ジェローム・ロビンズ
衣裳:サント・ロカスト
照明:ジェニファー・ティプトン
チェロ:ソニア・ヴィーダー=アサートン
出演:マチアス・エイマン
バッハの組曲に合わせ、マチアス・エイマンの1人舞台である。セットはなし、究極のミニマムな世界の中で赤い衣装に身を包んだエイマンは羽のように軽く、重力を感じさせない。
長調、短調、重い曲調や速いテンポに合わせ、自在に自由にステージを支配する様に見惚れるばかりだ。驚くのはエイマンの息遣いまで聞こえること!サウンドの微調整も優れている。持ち味を出し切ったスタイルのエレガントさ、自由な感情が舞台を支配する。チェロ奏者との一騎打ちだ。
「牧神の午後」(原題:Afternoon of a Faun)
音楽:クロード・ドビュッシー
振付:ジェローム・ロビンズ
装置:ジャン・ローゼンタール
衣裳:イレーヌ・シャラフ
照明:ジェニファー・ティプトン
出演:ニンフ:アマンディーヌ・アルビッソン(ニンフ役)/ユーゴ・マルシャン(牧神役)
本作の中で最も心惹かれ、感動した演目。ニジンスキーの振り付けと衣装、意匠といった世界観の印象が強いため、見始めた時は、レッスンバーに囲まれたミニマムなセットに意表を突かれた。が、牧神役のユーゴ・マルシャンの表現力の豊かさに導かれ、大自然に抱かれた牧神が微睡みながら、夢想する様子が実相のように見えてきた!
ニンフが登場してからのコンビネーション、緩やか且つしなやかな体位に、鍛え抜かれた体幹が分かる。2人の示す大らかな官能表現に心底感動した。これ見よがしな超絶技巧を披露せずとも、エモーショナルな部分に訴求すれば伝播することの実証である。ニジンスキーの精神は継承された。
「グラス・ピーシズ」(原題:Glass Pieces)
音楽:フィリップ・グラス
振付:ジェローム・ロビンズ
装置:ジェローム・ロビンズ/ ロナルド・ベイツ
衣裳:ベン・ベンソン
照明:ジェニファー・ティプトン
出演:セウン・パク/フロリアン・マニュネ
エネルギーに満ち溢れた演目。しかし、表現はあくまで整然としている。大勢のダンサーが一定の規則性を保ちながら登場する。器械体操のように整然と行き交うダンサーが纏う色とりどりの衣装が美しい。
反復的なグラスの楽曲に合わせ、ダンサーというのは歩くだけでも絵になるのだなぁと感心した。背景になるタイル目地を思わせるシンプルさも踊りを引き立てる。
中盤から横一列に登場するダンサーたちが、シルエットのような効果を及ぼす。暗闇から2人のダンサーが浮き上がって見えるのだ。硬質な動きが美しく、ドラムロールと呼吸が合っている。現代音楽的に不安な雰囲気を、 体幹が強くバネが際立つ力強い踊りで払拭している。地球の鼓動とリズムを感じる。全体の設計・構成が見事に安定し、幕切れの暗転も鮮やかだ。
(大瀧幸恵)
配給・宣伝:カルチャヴィル合同会社
2018年製作/114分/フランス
公式サイト:https://www.culture-ville.jp/parisoperaballetcinema
Photos (C) Sebastien Mathe / OnP
★2022年6月24日(金)より、東京・東劇他にて全国公開
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