監督:ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル
プロデューサー:ブレンダン・J・バーン、ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル、ポール・カデュー
エグゼクティブ・プロデューサー:トレバー・バーニー、クリスティアン・ベーツ、マリーズ・ルイヤー
撮影監督:アンドリュー・マコーネル
編集:ミック・マホン
音楽:レイ・ファビ
ガザ地区に住む3人の人々。国連開発計画(UNDP)で働いてきたマナル・カラファウィ氏には、5人の子供がいる。カラファウィ氏の娘である19歳のカルマ・カイアルさんは、奨学金をもらってアル・アズハル大学で法学を勉強している。一方、18歳のアフマド・アル=アクラーさんの父親には3人の妻がおり、13人の兄弟と23人の姉妹と暮らすアル=アクラーさんはいつか大きな船を持ち、家族で大規模な漁業を営むことを夢見ていた。
ガザは飛び地のように、地中海に面した地域である。東京23区に満たないぐらいの狭い場所にパレスチナ人約200万人が暮らす。ふだん報道などで目にするガザは政治絡みばかりである。本作はイデオロギーや宗教色を排し、ガザに暮らす市井の人々を淡々とした話法でスケッチしたドキュメンタリーだ。一端を紹介したい。
冒頭、海に潜る元気な子どもたちが活写される画面に少年のナレーションがかぶさる。
「僕のお父さんは奥さんが3人。大家族なんだ。海辺の難民キャンプに住んでるんだけど、狭いよ、ギュウギュウ! 浜辺で寝ることもあるくらいだ。僕は海で生きていく。漁師として漁船の船長になるのが夢」
粗い映像に地中海の眩い光が射す。 大人に教わったGPSを使いこなしながら船を操舵する少年。立派な船長になれよ!と心の中で応援したくなる。
辺りは夕陽を背景に、人々がひしめく。海にへばりついたような小さな街が遠景となる。
老婆が語るエルサレムの思い出。 父はイスタンブールで弁護士をしていた。感受性が強いから悩んだのです。
少女のナレーション、
「 戦争だらけの地にいると、穏やかで平和な場所を夢見るの。言葉にできない思いが多いから、チェロで心を表現する。現実逃避かもしれないけど、音で伝えたいことがたくさんある」
荒んだ地に響き渡る少女のチェロの音色が、心に沁み入る。
ヨルダンに住んでいたと語る青年。
「同僚が殺された。ガザにいる家族の元に戻り、初めて海を見た。ライフセーバーになって7年。 ガザは深刻だね。食料も電気も足りない。自由すらないんだ。旅にも行けないよ」
水上スキーを巧みに操ってみせる。「現状を打破したい」との思いが切実に届く。
「ここは仕事がない。ミシン工場をやってるが10分で停電してしまう。毎日の電力不足で1日4時間しか働けないんだ。余ってる時間はポーカー仲間と過ごすしかない」
ガザは物流が閉ざされている。海洋も完全封鎖だ。まともは漁はできない。“海域から出たら死ぬ“のが日常。
「両国が和解すれば仕事は出来るんだがなぁ。ガザは見捨てられたよ」
浜辺、街中あちらこちらで 祈りを捧げる人々の姿が印象的だ。彼らの祈りは叶うのだろうか。
11歳の少年。
「銃声で兄が殺されたことを知った。楽しみは花火で遊ぶこと」
「死人が多過ぎるよ。 救急治療ばかり。 帰宅できないのが辛い」
救急隊員の嘆きである。
カメラは緊迫した場面にも遭遇する。子どもたちの頭上を飛ぶ戦闘機。突然、始まる銃撃に逃げ惑う人々。爆撃に逃げ遅れ、救助を求める手が見える。その向こうでは火事が発生。混乱と阿鼻叫喚の中、子どもの遺体が見つかる。動物の死骸が辺りを覆う。葬儀で泣き叫ぶ遺族たち…。
この時のイスラエル侵攻により、子どもを含む2200人が犠牲になったという。
「家族と居られて幸せだけど、ガザでは5分後にどうなるか分からない」
遠い国の出来事に思えるが、映像で見ると世界は地続きなのだと痛感する。やり切れない現実を目の当たりにして何も出来ないもどかしさが募るばかりだ。淡々とした話法のスケッチだけに、ガザに住む人々の心情がダイレクトに伝わった。「欲しいのは平和と普通の生活」…。人々が当たり前の暮らしをするために、私たちは何をすべきか?考える契機となる映画だろう。
(大瀧幸恵)
配給:ユナイテッドピープル
92 分/アイルランド・カナダ・ドイツ/2019 年/ドキュメンタリー
(C) Canada Productions Inc., Real Films Ltd.
公式サイト:https://unitedpeople.jp/gaza/
★2022年7月2日(土)より、シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開
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