パレスチナのピアニスト (原題:The Pianist from Ramallah)

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監督:アヴィダ・リヴニー
プロデューサー:エイタン・エヴァン、ウディ・ザンバーグ
撮影:ネイエフ・ハムド 編集:ニリ・フェラー
原語:アラビア語、ロシア語、英語
出演:モハメド・ミシャ・アーシェイク

パレスチナ人の父とロシア人の母の間に生まれたモハメド・ミシャ・アーシェイク氏は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区ラマッラで育つ。彼のピアノの先生はユダヤ系イスラエル人で、レッスンを受けるためには3時間かけてエルサレムに通わなければならない。アーシェイク氏はピアニストを志し、1日3時間から4時間という限られた練習時間ながらもレッスンを重ねていく。

モハメド・“ミシャ”・アーシェイク。住まいはイスラエルと紛争を抱えているパレスチナ自治区の都市ラマッラ。パレスチナ人の父、ロシア人の母の間に生まれたバイリンガルのミシャは、一見するとのびのび育ったごく普通の少年だ。10歳からピアノを始めたにもかかわらず、ぐんぐんと天分を伸ばし続け、国際ピアノコンクールで優勝を果たすほどの実力を示す。
ユダヤ系イスラエル人 のピアノ講師にレッスンを受けるため、イスラエル側の検問所を通過し、バスや電車を乗り継ぎ、3時間かけてエルサレムに通う。

本作はミシャの13歳から17歳の 4年間を追ったドキュメンタリーである。 小さな手を握りしめ、母に付き添われて高い壁が隔つ厳重な検問を抜ける。講師の自宅で厳しいピアノ指導を受けながらレッスンに励む13歳のミシャ。後ろで控える母は熱心にメモをとっている。講師の老婦人は口調は厳しいものの笑顔が優しい。ミシャを心から慈しんでいることが分かる。

イスラエル・パレスチナ間の情勢が不安定になると検問所が封鎖され、通えなくなることも…。そんな時はリモートで指導を受ける。一流のピアニストを目指すミシャには厳しい環境だろう。超えなければならない障壁が幾つもある。パレスチナ自治区には音楽の専門学校がない。国際コンクールへ出場したくても、自由に行き来ができない国境の壁。オーディションに合格し、ヨーロッパへの留学が決まった矢先、今度は新型コロナウイルスの世界的蔓延がミシャの前に立ちはだかる。

政治情勢やパンデミックは、ミシャ個人の力ではどうすることもできない。観客はミシャの心情と同化し、“どうにかならないものか!“と、やり切れない思いを抱える。研鑽を惜しまず、作曲にも励むミシャ。心が和むのは、母の故郷ロシアのノボシビルスクでの様子だ。白雪の中、第4回トランスシベリア音楽祭に参加。青少年オーケストラと交響曲を演奏する。指揮者と握手し、手応えを感じながら熱奏するミシャ。身体は小さいが力強い音色だ。講師も同伴し、嬉しそうに「 アラブのお菓子よ!」と配っている。

いつの間にか弟が増え、小さかったミシャは 182cmの長身に!相変わらずシャイで無口だが、意思の強さは眼の光に表れている。学業成績も優秀で学年トップだという。努力家なのだろう。父は医師の道を薦めるが、ミシャはピアニストの夢を諦めきれない。
アヴィダ・リヴニー監督によると、現在19歳になったミシャは、エルサレムのピアノアカデミーで勉強中。2023年には留学を考えており、今でも当時の講師に教えを乞うているそうだ。淡々と対象の姿を追いながら、自然とミシャを心から応援したくなってしまう巧みな構成である。
(大瀧幸恵)


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配給:ユナイテッドピープル
61 分/イスラエル/2020 年/ドキュメンタリー
公式サイト:http://www.unitedpeople.jp/palestine
★2022年7月2日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国公開


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