監督・脚本:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、ジェナ・オルテガ、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ(キッド・カディ)、マーティン・ヘンダーソン、オーウェン・キャンベル、ステファン・ウレ
1979 年、テキサス。⼥優のマキシーンとそのマネージャーで敏腕プロデューサーのウェイン、ブロンド⼥優のボビー・リンとベトナム帰還兵で俳優のジャクソン、そして⾃主映画監督の学⽣ RJ と、その彼⼥で録⾳担当の学⽣ロレインの 3 組のカップルは、映画撮影のために借りた⽥舎の農場へ向かう。彼らが撮影する映画のタイトルは「農場の娘たち」。この映画でドル箱を狙う――。6 ⼈の野⼼はむきだしだ。そんな彼らを農場で待ち受けたのは、みすぼらしい⽼⼈のハワードだった。彼らを宿泊場所として提供した納屋へ案内する。⼀⽅、マキシーンは、⺟屋の窓ガラスからこちらを⾒つめるハワードの妻である⽼婆パールと⽬があってしまう……。そう、3 組のカップルが踏み⼊れたのは、史上最⾼齢の殺⼈夫婦が棲む家だった――
次々と良作、秀作、問題作を提供し続けているスタジオ「A24」。ホラーも一風クセのある変化球を放ってきた。舞台は1979年の米国テキサス。冒頭、轢かれた牛の血塗れ死骸からして不穏な空気が漂う。如何にも米国の田舎らしい牧草地に建つ古びた小屋、濃厚な‘70年代の雰囲気…。と思いきや、全編ニュージーランドで撮影されたそうだ。パンデミックが世界中を覆っている最中、13ヶ月を感染者の少ない地域で製作できたことはラッキーだった、と、監督・脚本のタイ・ウェストは言う。
自身がシネフィルであるウエスト監督は、本作の中に、ホラー、スリラー、スプラッシャーなどのジャンル映画やアメリカン・ニューシネマ、仏ヌーヴェルバーグ、ポルノ映画の要素を詰め込んでいる。敢えて低予算映画のテイストを盛り込んだのも面白い。ミニ・タランティーノの趣きがある。乾いた大地、広大な牧場、青い空、暗い室内の中で行われるのは凄惨な殺人だ。
昨年、2作目が封切られた人気作『ドント・ブリーズ』ではないが、老人それも最強の老夫婦が持つポテンシャルが凄まじい!A24では珍しく、3部作としてシリーズ化されるという。『ドント・ブリーズ』のようなヒット作になることは請け合いだ。
南北戦争時に兵舎として建てられたレトロな小屋に乗り込むのは、 ポルノ映画『農場の娘たち』の撮影クルーたち。「貸すとは言ったが、こんなに大勢とは聞いてない」と燻る老人に、札束を渡すプロデューサー。いきなり胡散臭さ満開だ。主役を務めるマキシーンは、テキサス出⾝のストリッパー兼⼥優。「ワンダーウーマン」(懐かしい!)に主演していたリンダ・カーターに憧れている。マキシーン役のミア・ゴスは英国出身の実力派。
ゴダール推しの新鋭監督RJは、アート志向。ポルノ映画に作家性・芸術性を盛り込もうと意気軒昂である。監督RJの彼⼥で、録⾳スタッフのロレインは、若く控えめなせいかクルーの中では浮き気味。筋肉隆々の黒人男優、マリリン・モンロー気取りの金髪女優が、主に濡れ場シーンを担当。過激なポーズを披露したり、’70年代フリーセックスの時代を体現している。
ウエスト監督の撮影手法は、CGや合成を避け、実車主義。実は中心人物が二役を演じているのだが、それも特殊メイクに拘り、独特な質感を齎せている。カラーリングにも注力したと思われる色彩豊な画面、美しい自然描写も目を惹く。湖を全裸で泳ぐ豆粒のように小さいマキシーンを捉えた俯瞰ショットなど、ハッとするほど優れた映像が多く、観客の没入感は増していく。
ストーリー展開や仕掛けは、さほど込み入った内容ではないが、スタイリッシュな映像と、音楽センスの良さは出色である。血がドバーッ、思わず仰け反る恐怖シーン満載だが、不思議に後味は爽やか。ウエスト監督の技量が光るB級テイストの佳編である。
(大瀧幸恵)
提供:ハピネットファントム・スタジオ WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2022 年|アメリカ映画|上映時間:105 分
©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
公式サイト:https://happinet-phantom.com/X/
公式 twitter:@xmovie_jp
★2022年7月8日(金)より、TOHO シネマズ⽇⽐⾕ ほか全国ロードショー
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