監督・脚本:五十嵐匠
脚本:柏田道夫
音楽:星 勝
出演:萩原聖人 村上淳 吉岡里帆 池間夏海/榎木孝明/成田浬 水橋研二/香川京子
第2次世界大戦末期の1945年。沖縄が戦場となる危機が迫る中、知事として本土から赴任した島田叡(萩原聖人)は、自分が来る以前から県民の疎開に尽力していた沖縄県警察部長の荒井退造(村上淳)と共に県民の安全確保を目指す。4月、アメリカ軍が沖縄本島に上陸し日本軍との間で激しい戦闘が行われ、住民を巻き込む凄惨(せいさん)な地上戦へと突入。島田は住民を追い詰める軍の指令に苦悩しながらも、荒井と共に県民の命を守るために奔走する。
五十嵐匠監督は”信念の人”だ。ドキュメンタリーでは、『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』。報道写真家・一ノ瀬泰造役に浅野忠信を迎えた『地雷を踏んだらサヨウナラ』。歴史を主題にした『長州ファイブ』『半次郎』 『二宮金次郎』。『HAZAN』『アダン』『我はゴッホになる! 〜愛を彫った男・棟方志功とその妻〜』(TV)では、気骨ある芸術家を描いた。
個人的には、詩人・金子みすゞの半生を追った『みすゞ』が印象深い。自ら生命を閉ざすも、金子みすゞを信念と気骨を持った詩人として描いた佳篇であった。どの作品にも力強くブレない主人公が登場する。
本作はパンデミックにより、1年8か月の撮影中断を経て完成するも公開は延期。五十嵐監督ら、スタッフ、キャスト陣の静かだけれど強靭な執念が実り、公開に至った。太平洋戦争末期の沖縄戦は、『激動の昭和史 沖縄決戦』『ひめゆりの塔』など、過去にも映画化されてきた。が、本作に既視感はない。上記のような気骨溢れる人物が登場する点と、五十嵐監督の演出話法が正攻法にして、簡潔雄渾だからだ。
中心人物となる2人は、監督同様にウチナンチュではなく、本土出身である。沖縄に縁もゆかりも無かった出自を持つ。にも関わらず、官僚として赴任し、職務を超えて県民の生命を守るべく奮迅した造形が、高純度で結晶化している。知事の世話役であり、ひめゆり部隊を率いた県職員、その妹で看護学徒隊を担った少女にしても、瀕死の傷兵たちを見捨てることはなかった。純粋さが本作の姿勢を象徴するようだ。
対照的に描かれるのは、一億総玉砕と叫ぶ中、唯一地上戦があった沖縄を見捨てた大本営司令部の非情さ、非道ぶりである。自分たちは堅牢な首里城の地下壕にいながら、劣悪極める環境のガマに隠れた民間人の多くは、空襲やゲリラ戦に巻き込まれて戦死 。 ところが、「玉砕は本意じゃない。道連れは愚策。首里を放棄する」とのたまう司令部の将軍。野戦病院は解散し、戦場に放り出される民間人。指揮命令を出す者はいない。
「標準語を使え! 沖縄弁はスパイとみなして処分する」
「それなら島じゅうスパイさぁ」
島民の尊厳すら認めていないのだ。
赴任した知事と警察本部長は、「フェアプレー!チームワークだ!」と敵性語も厭わず、 穴掘り徴用に駆り出された島民に歌舞音曲や飲酒を許す。自由な精神の持ち主であることが丁寧に描かれる。この2人は今でもウチナンチュたちから慕われ、平和祈念公園には島田知事、荒井警察部長終焉の地の碑が建っている。卑近な例で恐縮だが、沖縄訪問時、最も印象に残ったのは「ひめゆり平和祈念資料館」だった。パンデミックが落ち着いたら、平和祈念公園を再訪し「島守の塔」に詣りたい。両氏についての新たな知識を授け、抵抗の気高さを表してくれた本作には感謝の念しかない。
(大瀧幸恵)
2022年製作/130分/G/日本
製作:映画「島守の塔」製作委員会
配給:毎日新聞社 ポニーキャニオンエンタープライズ
©2022 映画「島守の塔」製作委員会
助成:文化庁 文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
公式サイト:https://shimamori.com/
★2022年7月22日(金)より、シネマスィッチ銀座ほかにて順次全国公開
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