夜明けの夫婦

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脚本・監督:⼭内ケンジ
エグゼクティブ・プロデューサー:河村光庸
プロデューサー:野上信⼦
撮影:渡部友⼀郎
録⾳・整⾳:北原慶昭 杉⽥知之
出演:鄭亜美 泉拓磨 ⽯川彰⼦ 岩⾕健司 筒井のどか ⾦⾕真由美 坂倉奈津⼦ 李そじん / 吹越満 (特別出演) 宮内良

新型コロナウイルスの感染拡大がようやく落ち着いた日本。33歳のさらは夫・康介の両親と同居しており、夫婦に子供はまだいない。彼女は義母・晶子から孫の誕生を熱望されていたが、コロナが猛威を振るう間、家で長い時間一緒に過ごしていた夫婦は性生活から遠ざかっていた。しかし康介は、ひそかにほかの女性と浮気しており、その一方で晶子はコロナで自身の母を亡くし、孫の誕生を願うあまり精神的に不安定になっていく。

⼭内ケンジ監督・脚本作品には毎回毎回、笑うと同時に感心させられる。この独創性に満ちた発想はどこから湧き出るのか?時折、本筋とは関連なく差し挟まれる”そこはかとない可笑しさ”といったらどうだろう!自然な会話劇に見えて、実は計算し尽くされた演出話法。劇作家でもある⼭内ケンジ監督の技量が活かされ、本作は過去作と比べても一層シアトリカルな味わいだ。当世風の表現を用いるならば、”ジワる”か。文字通り観終わった後も台詞や映像を思い出してじわじわと笑えてくる。実は、重大な叙事を孕んだ大人のための上質な喜劇だ。

映画は著作物であるから、監督の心映えが如実に表れる。各カットは監督の心のシャッターで切り取るものだ。本作は、最近の邦画には珍しくベッドシーン、ヌードシーンが多い。あってはならない禁じ手の場面さえ出てくる。それが少しもいやらしくない。基本的に作り手が”上品”だからに違いない。女性観客には直ぐ分かる。女優の身体をモノと観ているか、きちんと尊厳を認めているか…。⼭内ケンジ監督作品の視点は常に”上品”さを失わない。作り手の快楽が加わった無為な場面はなく、あくまでも物語に必要な描写なのだ。
良心的作品と見せかけて、マーケティングや”お金大好き”主義が散らつく映画を、ここでは”下品”と定義したい。

ハリウッド的スペクタクルや、安易なカタルシスが求められる渦にあって、その対局に位置する⼭内ケンジ監督作品の属性は貴重だと言い切れる。
特に、本作に於いては「男らしさ」「女らしさ」の考察が興味深かった。ネタばれを避けるため、詳細は語れないが、冒頭から彫刻のように人物造形が彫りこまれる。架空の人物たちを現実世界に溶け込ませて観客に想像を委ねる優れた創作の力。
徐々に顕在化する群像模様も、個々の魅力が立ち上がり、エチュードを映画に定着させたような瑞々しさだ。

中盤以降はシニカルな笑いを超え、鮮やかな転調を迎える。有りがちな夢オチではなく、幻想と現実の境い目に落とし込んだユーモアが、作品を観念性から解放する。透徹した人間観察眼と言えよう。終盤は観客が予想もつかない地点へと着地する。猥雑さも含めた市井の幸福が、そこには多元的に広がっている。
少子化や嫁姑問題、男女差、年齢差、職業とキャリア、国籍問題などなど、様々なフラグを立てつつ、回収した多幸感。⼭内ケンジ監督の冴え渡るセンスが堪能できる、邦画の収穫作だ。
(大瀧幸恵)


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制作:オーバースリープ
配給:スターサンズ
配給協⼒:ギグリーボックス
製作:『夜明けの夫婦』製作委員会
2021 年/⽇本/135 分/16:9/カラー/5.1ch
公式サイト:https://yoakenofuufu.jp
Twitter:@dawning_on_us
★2022年7月22日(金)より、新宿ピカデリー ポレポレ東中野 下北沢トリウッドほか全国順次公開


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