監督・脚本:ファビアン・ゴルジュアール
出演:メラニー・ティエリー、リエ・サレム、フェリックス・モアティ、ガブリエル・パヴィ
生後18ヶ月のシモンを受け入れた里親のアンナと夫のドリス。2人の息子とは兄弟のように育ち、幸せな4年半が過ぎようとしていた。ところが、実父のエディからシモンを手元で育てたいと申し出が…。突然訪れた“家族”でいられるタイムリミットに、彼らが選んだ未来とはー。
原題は「本物の家族(La vraie famille)」。監督・脚本のファビアン・ゴルジュアールの実体験が基になっている。ゴルジュアールの両親は、本作と同じく1歳8ヶ月の男の子を里子に迎え入れ、6歳になるまで”家族”として過ごしたという。「本当の家族とは何なのか?」との命題が明確に据えられた秀作である。邦題は、里子と里親が家族でいられた時間を示し、具体的なイメージが湧きやすい工夫が観られる。
冒頭から中盤まで、バカンスを楽しむ幸せそうな仲良し家族の様子が画面いっぱいに描かれる。それが充足している分だけ、里子と里親の宿命というべき「別れ」の時は辛く切ない。終盤は涙を誘う場面が続く。が、フランス特有の合理性が有機的に機能し、感傷を排した幕切れだ。
”合理性”は本作のキーポイントであるように思う。まず日本との文化の差異に驚かされる。仏では里親は”仕事”として位置付けられているのだ。国家資格でもあり所定の研修を要す。給料も支払われる。パリの場合、子どもの養育費とは別に手取り約18万5000円が支給され、年休の取得もある。定年は62歳。プロの里親を国が支援しているわけだ。
未だ家制度が色濃く、合理的に割り切れない問題として”血族”を重視する日本とは決定的な違いがある。養子や里子、里親の存在を身近に知る人は稀ではないだろうか?どちらが良い悪いの話ではなく、「児童福祉」の考え方の差なのである。
里親のママ役メラニー・ティエリーは、マルグリッド・デュラスを演じた『あなたはまだ帰ってこない』の諦観漂う表現が印象的だった。本作では母性溢れる情愛の豊かさ、リアルな哀切さが記憶に残る名演である。悲痛な訴えに説得力があり、物語を牽引し続ける。宗教に関する描写も、仏家庭を知る上で興味深い。里子のシモンと母のアンナだけはカソリック信者で毎週、教会のミサに通う。他の兄弟2人は十字のきり方さえ知らない。多様性が家庭の中にも自然に浸透している証左だ。
ゴルジュアールは1シーン1カットを好む監督のようだ。子役たちの躍動感を連続性を持って息づかせる話法に適している。それに付き合う大人たちキャスト、スタッフ陣が自然な演技を引き出すべく、努めた結果だろう。ママと2人の関係を持つことの多く、複雑な感情表現を求められるシモン役のガブリエル・パヴィは、監督とキャスティングディレクターが公園でスカウトした全くの素人だという!
シモンが悪夢から目覚める場面がある。駆け付けたママに
「ママがいなくなって写真の人が僕を捕まえるの!叫んでも声が出ないんだ!」
「大丈夫よ!世界の果てにいてでもあなたに気付くわ」
抱きすくめるママ。
これは実父から貰った、亡き母と写った洗礼式の写真に動揺したシモンの内的葛藤を表出した場面。驚くことに、ガブリエル・パヴィのアドリブだそうだ。受けの演技に徹したティエリーあっての名演だろうが、理解力と爆発力を一気呵成に表現した6歳に注目されたい。
切ってもきれない愛情で結ばれた2人に、「ママと呼ばせないでほしい」と要求する実父。酷いようだが、実の親子関係を形成する上で必要な過程なのだ。仏のお国柄を知り、考える点が多い本作。日本人にとっては、制度が合理的過ぎ、週末の度、荷物のように2つの家庭を行き来する子どもが切なかった。制度を重視するがあまり、子どもの福祉がなおざりでは?盲導犬や介助犬をなる前の子犬を預かり、愛情をたっぷり注ぐパピーワーカーのようではないか?愛で結ばれた者との別れは誰だって辛い。監督の実家でも、里子を迎え入れたのは1だけだそうだ。
数々の問題提起を孕みつつ、家族愛がこれ以上ないほどの純度で結晶化した映画である。
(大瀧幸恵)
2021年/フランス/仏語/102分/1.85ビスタ/5.1ch/
配給:ロングライド
©︎ 2021 Deuxième Ligne Films - Petit Film All rights reserved.
公式サイト:https://longride.jp/family/
★2022年7月29日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国順次公開
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