監督:エマニュエル・クールコル
脚本・台詞:エマニュエル・クールコル
協力:ティエリー・ド・カルボニエール、カリド・アマラ、ヤン・ヨンソン(原案)
プロデューサー:マルク・ボルデュール、ロベール・ゲディギャン
撮影:ヤン・マリトー
衣装:クリステル・ビロ
音楽:フレッド・アヴリル
主題歌: “I Wish Knew How It Would Feel to Be Free” ニーナ・シモン
出演:エチエンヌ:カド・メラッド、パトリック:ダヴィッド・アヤラ、アレックス:ラミネ・シソコ、カメル:ソフィアン・カメス、ジョルダン:ピエール・ロッタン、ムサ:ワビレ・ナビエ、ボイコ:アレクサンドル・メドベージェフ、ナビル:サイード・ベンシュナファ、アリアンヌ:マリナ・ハンズ(コメディ・フランセーズ所属)、ステファン:ロラン・ストッカー(コメディ・フランセーズ所属)、ニナ:マチルド・クールコル=ロゼス、刑務官:イヴォン・マルタン
役者のエチエンヌ(カド・メラッド)は、囚人たちの演技のワークショップの講師として招かれる。彼は演目をサミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」に決め、さまざまな背景を持つ囚人たちと向き合いながら芝居に打ち込んでいく。やがてエチエンヌの芝居への情熱は囚人たちをはじめ、刑務官らの心も動かし、塀の外での公演が実現する。
実際の囚人が役を演じたドキュメンタリーとして圧倒的な印象を残す作品に、タヴィアーニ兄弟監督・脚本によるイタリア映画『塀の中のジュリアス・シーザー』がある。本作は俳優が囚人に扮したドラマだが、スウェーデンの実話を基にしている。フランスの女性刑務所長が、刑期終わりが近い囚人たちを集め、演劇ワークショップを立ち上げる。2人目の講師に呼ばれたのは、パッとしない中年俳優。刑務所内部へ初めて入る男に対し、
「緊張してんのかい?」
「今度は喜劇がいいなぁ」
「あんた、見たことねぇな〜」
「売れてる俳優だったら来ないぜ!」
たちまち講師を弄る囚人たちの冒頭場面からフランス風味全開だ。
900人の受刑者がいるモーショコナン刑務所内で撮られたという映像の質感、その中で囚人に成りきる俳優陣のクセが強い演技はリアルなこと、この上ない。ヤク中、こそ泥、殺人犯にしか見えないのだ。あらためて仏俳優の底力を実感した。台詞はスラングの連発。二言めには「Merde!Merde! (クソ!)」。実は、この言葉はフランス演劇界ではゲンの良いおまじないのようなもの。だから、たくさん発声しても構わないのだということを初めて知った。理由は映画を見てのお楽しみ♪
講師は演目に、不条理劇として世界中で上演されるサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を選ぶ。
「これは待つこと(刑期、作業、食事、就寝の時間など)を知り尽くした囚人たちに近い。待つ男たちの寓話だ」
と説明する。なるほど、膝を打ちたくなる選択だ。この戯曲を選んだスウェーデンの演出家の慧眼ぶりに感心する。
講師は囚人たちに発声法から教える。
「横隔膜を開いて猿になってみろ。野生動物だから檻の中にいるんだ」
サミュエル・ベケットを知らず、難解な台詞に業を煮やして「辞める!」と言い出す根気のない彼らも、指導を面白がり、自主練習を始める。他の囚人仲間まで巻き込んで台詞の応酬にまで広がる場面が楽しい。
エンディングで紹介される実話の囚人たちは、スウェーデンだけにスカンジナビア系ばかりだったが、本作ではフランス現代流に更新。移民・難民やロシア人の清掃補助員もおり、多様性が観られる。彼らの来歴までは触れず、観客に想像を委ねる心憎い話法だ。監督は、これが長編2作目だという俳優・脚本家でもあるエマニュエル・クールコル。
囚人たちの自由を希求する魂が、官僚制度を打ち崩す様は、さすがフランス革命の風土を思わせる鮮やかさ。講師の内省、葛藤を横軸に配した点もドラマ的興趣を盛り立てた。エンディングが爽やかでハッピーな余韻が残るのは、ニーナ・シモンが歌う自由賛歌の楽曲による影響が大きかろう。
(大瀧幸恵)
[2022年フランス映画|105分|フランス語|シネマスコープ 2.29:1|5.1ch|DCP・Blu-ray]
配給:リアリーライクフィルムズ
© 2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms www.reallylikefilms.com/applause
公式サイト:http://applause.reallylikefilms.com/
★2022年7月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開
この記事へのコメント