監督・プロデューサー:松本貴子
ナレーション:池田昌子
撮影:門脇妙子、金沢裕司
音楽:川口義之(栗コーダーカルテット)
音楽プロデュース:井田栄司
大竹幸恵氏は、長野県の山中にある星糞峠の遺跡発掘現場に、調査員として30年間通い続けてきた。一方、発掘が始まったばかりの、岩手県洋野町にある北玉川遺跡では、調査員の八木勝枝氏が指揮を執っていた。また、神奈川県の稲荷木遺跡は調査員8名、作業員200名の大所帯で、池田由美子氏はそこで作業員として働いている。
菜の花畑が広がる長閑な風景。ラジオ体操を終えたへルメット姿の人々が整然と現場へ向かう。カメラに向かって作業着の中年男性が説明する。
「この階段を3段降りると300年前、 江戸時代ですね。5段降りると10000年前の平安時代。一番下は3500〜4000年前なんですよ。あ、足元に気を付けてくださいね」
工事現場と思しき場所では、1万6000年前の縄文時代に遡る遺跡を発掘する作業が続いている。調査研究のはずだが、辺りからはなんとも楽しげな笑い声が響く出土風景だ。
出土され、きちんと梱包された土器がトラックに運ばれる。どこへ?
「警察に届け出るんですよ。 落とし主不明なんで」
えぇ?せっかく発見したのに?トラック運転手さんのいう通り、出土された遺跡物は落とし物として遺失物法により、所管の警察署長宛てに1週間以内に提出しなければならないそうだ。なるほど…。と思っていたら、のんびりした劇版が流れ、画面にタイトルが広がった。
こんな感じで、おっとりのんびり楽しげに始まる本作は、実は知識や発見、新たな知見を得られる宝庫!次々と登場する映像や言葉、人物たちの描写から、勉強になる情報が飛び出してくる。メモをとる手が忙しかった。考古学に疎いのは観客だけではなく、監督もそうらしい。
もともと縄文の土偶や土器が好きで博物館に行き、力を貰っていたことは確かなようだ。が、博物館へ運ばれるまでの過程が分からない。発掘風景の映像を見ても、作業している帽子をかぶったおばちゃんたちたちの顔が見えない。帽子の下にはどんな顔があるのか?と思ったことが動機だという。
作業員たちは、殆どが遺跡発掘場での地元採用。見回りながら現場を仕切るのは、調査員と呼ばれる大学などで専門の勉強をしてきた人。補助員もおり、作業員は、実際に掘って遺物などを取り上げる、という構図になっている。様々な遺跡発掘調査現場が紹介される。映画が注目するのは、主に調査員。それも全員が女性だ。調査員さんたちのキャラクターがそれぞれユニークなこと、面白いこと!“縄文愛“が身体の隅々から言葉の端々から溢れ出す。愛おしげに泥や土を四つん這いになって掘り進む姿。頭にイガグリが落ちて、「イッテェ〜!」と叫びながらも嬉しそう。各々の幸せな表情を見ていると、こちらまで頬が緩む場面がいっぱいだ。
考古学の世界は圧倒的な男社会。女性考古学者は少ない上に、就職先も限られる。実績を示すため、論文や成果物の提出、報告に追われるし、冬は設計図などの作成で忙しい。見入りだって良くはないだろう。でも、本作に登場する調査員たちは、好きな仕事ができて満足この上ない顔をしている。顔も髪も身体中、泥まみれを本人も自覚し、
「ひっどい顔やろ?」
と拭いもせず笑う表情は本当に魅力的だ。
こういった調査員がいる現場では、パワハラなど皆無だ。夏は1時間に15分ごとの休憩をとりながら、作業員たち手作りする地元「ソウルフード」をみんなで頬張る。
「なんも出てこん?ないことが分かるのも重要なんよぉ」
調査員にそう言われれば、作業員たちの心も和むだろう。
国宝指定された縄文土器5体のうち、“合掌土偶“と呼ばれる土偶を発掘した作業員2人の、当時を語る様子も楽しい。
「あれ?カチンとなったなと思うたら、土偶だったんよ。こないして横になってたなぁ」
作業員募集のチラシを見て応募したばかりの頃だったという。
「ビギナーズラック!(笑)あれから取り憑かれてますぅ。楽しいわぁ」
多くの人々を虜にし、人生まで変えてしまう縄文文化。豊かな芸術性、高度だったと言われる文明の跡が、本作ではたくさん紹介される。ぜひ、ご自身の目で確かめてほしい。
(大瀧幸恵)
製作・配給:ぴけプロダクション
◎2022ぴけプロダクション
資料提供:東京都教育委員会
神奈川県教育委員会
洋野町教育委員会
茅野市尖石縄文考古館
配給協力・宣伝:プレイタイム
公式サイト:https://horuonna.com/#modal
★2022年8月6日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国公開
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