みんなのヴァカンス (原題:À l’abordage)

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監督:ギヨーム・ブラック
脚本:ギヨーム・ブラック、カトリーヌ・パイエ
撮影:アラン・ギシャウア
プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイイ
出演:エリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、エドゥアール・シュルピス、アスマ・メサウデンヌ、アナ・ブラゴジェヴィッチ、リュシー・ガロ、マルタン・メニエ、ニコラ・ピエトリ、セシル・フイエ、ジョルダン・レズギ、イリナ・ブラック・ラペルーザ、マリ=アンヌ・ゲラン

夏の夜、セーヌ川のほとりで、フェリックスはアルマに恋をする。夢のような時間を過ごすが、翌朝、アルマは家族と共にヴァカンスへ旅立ってしまう。フェリックスは、親友のシェリフ、相乗りアプリで知り合ったエドゥアールを道連れに、アルマを追って南フランスの田舎町ディーに乗りこんでいく。自分勝手で不器用なフェリックスと、生真面目なエドゥアール、その仲を取り持つ気の優しいシェリフ。サイクリング、水遊び、恋人たちのささやき。出会いとすれちがい、友情の芽生え…。3人のヴァカンスも、みんなのヴァカンスも、まだはじまったばかり──。

ひと夏の出来事、フランスらしい軽妙洒脱なコメディー。 エリック・ロメールやジャック・ロジエの系譜を受け継ぐギヨーム・ブラック監督による台詞劇だ。監督の優しい視線と明るい光芒が照らし出す物語は、観客を多幸感に包むこと請け合いである。

驚くことに、脚本は大筋のみ決め、即興の余地を残したという。通りで演技をしている作為を全く感じさせない自然さだ。出演者はフランス国立高等演劇学校の学生たち。全員、長篇映画に出演するのが初めてだそうだ。スタッフも若く、長編映画に参加したことが少ないメンバーを揃えた。…と聞くと、演舞ゼミナールが製作した『カメラを止めるな!』を思い起こしてしまう。当初はTV用に企画されるも高評価され、ベルリン国際映画祭パノラマ部門に選出、国際映画批評家連盟賞特別賞を受賞し、フランスで劇場公開という”出世ぶり”も似ている。

実際、12人という少所帯。95%が屋外撮影の本作で、殆ど車止めや人払いをすることなく、溶け込んで撮影できた、という親密さは画面にも如実に表れている。スタッフが柔軟に動けたため、順撮りも可能になった。出演者たちの表情を観ていると、どんどん打ち解けて柔らかくなっているのが分かる。小品の持つ利点が全て有効に機能した訳だ。ハリウッド・ブロックバスターが物量で押し寄せる中、ロメールのような作風が継承されているフランス映画はやはり良い。

黒人非モテ男子のフェリックスとシェリフは、面識のないブルジョワ白人のエドゥアールと、ひょんなキッカケからヴァカンスをパリから南東部のドローム県ディーで過ごすことになる。のっけから爆笑の連続である。どの逸話もポンポンと軽快に流れる省略話法が効いている。カットが短いと、前の場面の余韻が残り、味わい深さが増すのだ。

少人数だが、流石はファッションの国。キャラクターを活かす衣装にも手を抜かない。映画の原動力となり、牽引役のフェリックスはチャラ男風。思慮深く心優しいシェリフには地味ながら温かさを感じる服。白人のエドゥアールは、実際ブルジョワの出自ではないものの、ポロシャツにバミューダパンツを纏うだけで社会階層が分かる仕掛けになっている。自前の服かと思ったほど馴染んだ衣装を選んだコスチューム担当、監督の慧眼は見事だ。

女優陣も若さを存分に表出したビキニなどの衣装が当てがわれていても、決して色気を押し出すショットはない。この点もロメール同様、清廉さが心地好い。唯一、母性を表出させる登場人物の衣装が意外や大胆だ。シェリフと絡む場面が多いので、調和も視野に入れているのだろう。

人間ドラマが繰り広げられるロケ地が素晴らしい。フランス南東部の微妙な光の変遷が、登場人物の感情に呼応するようだ。自転車で駆け上がる山頂の景色。爽やかな風が観ている側にも流れてくる。渓流下りをする川の水の冷たさ。岩はちょっとした諍いで心身が傷つき、和を乱す角度を持つ。若者たちをパリではなく、自然の中に配したことが奏功している。

キャンプ場、川、プール、カラオケバーが絶妙な位置関係にあることが、カメラのアングルから分かる。
「全てが屋外の小劇場、自然の中にあるスタジオのようでした」
と語る監督の意図を見事に反映した舞台設定だ。
避暑地の空気や光が、瑞々しいアンサンブル演技と俳優たちの化学反応を引き起こした。教訓臭はなく、下心のなかった者が一番の幸せを掴む、という治まりに、監督が若者たちを幸せに導きたいとんお誠実さが感じられて嬉しい。
(大瀧幸恵)

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プロダクション: Geko Films
共同プロダクション: ARTE France
2020 年 / フランス / フランス語 / カラー / 100 分 / 1.66 : 1 / 5.1ch / DCP /
配給:エタンチェ /
©2020 – Geko Films – ARTE France
公式 サイト:https://www.minna-vacances.com
★2022年8月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

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