原案・脚本・監督:内田英治『ミッドナイトスワン』
主題歌:「Choral A」Official 髭男 dism
製作:依田巽 渡辺信也 藤野英人
出演:阿部 寛 清野菜名 磯村勇斗 高杉真宙 板橋駿谷 モトーラ世理奈 見上 愛 岡部たかし 渋川清彦 酒向 芳 六平直政 光石 研 / 倍賞美津子
捜査一課で現場一筋の警部補・成瀬司(阿部寛)は、犯人逮捕のためには手段を選ばない鬼刑事で部下にも厳しく、捜査を理由に一人娘・法子(見上愛)との約束も破ってしまうような仕事人間だった。高齢者を狙った「アポ電強盗事件」が次々に発生する中、疑わしい人物を令状もなく捜査するといった強引な行動により、彼は上司から異動を命じられる。刑事部内での異動だろうと軽く考える司だったが、異動先は広報課の「音楽隊」だった。
始まりは低いアングル ・広角レンズで撮影された日本家屋。警察から犯罪防止のアンケートと称する電話に対応する老女。「現金の額と収納場所ですかぁ?」と呑気に答えた後、宅配便の訪問がある。「あら、今日は忙しいわぁ」と玄関に回る老女をにカメラはパンする。不穏な音が続き、侵入する男たち。ここまで全てワンカット長回し撮影である。
特殊詐欺の中でも悪質な「アポ電強盗」が主題か!と思いつつ、成り行きを見ていると、当該事件の捜査会議室に画面は移る。緊迫した会議中、真っ赤なポロシャツを着てデカい手で新聞をバッサバッサめくる刑事あり。明らかにイライラしている。本部長から態度を咎められると
「 会議より新聞のほうがいい情報載ってんだよ! 会議してんじゃなくて外に出て汗流すべきだろう!」
出て行こうとする刑事に
「 勝手な行動をするな!」
と一喝する上層陣。
「警察はバカばっかだよなぁ」
のっけから逸れ者感満載の刑事こそ、我らがアベちゃん、阿部寛である。スマホやITに弱く、現場百回を信条にした熱いハートの昭和型刑事。“コンプライアンス“も言えてない。
お年寄りを狙った犯罪には容赦がない。前科のある容疑者宅に令状もなしに押し入ってしまう(映画だから(笑))。自らの勘に頼る乱暴な捜査方法は、当然ながら上層部とぶつかる。本部長から呼び出しを受け、お咎めに遭うと
「30年やってる 刑事とチンピラ、どっち信じるんすか?!」
「30年だって?ちょうどいい。異動辞令だ。音楽隊を命ず」
プッと吹いてしまう直属上司。唖然とするアベちゃん。
「それ、警察じゃないでしょう?」
「役職的には 栄転だぞ。履歴書に 和太鼓の経験ありと書いてある」
さぁ、ここからがアベちゃんの新境地。阿部寛はこうでなきゃ!と思わせる適役だ。展開は本編にて、とくとご覧あれ。暑苦しいアベちゃん、ウザいアベちゃん、浮いてるアベちゃん、だけど人一倍、情に脆くて弱者に優しい…。憎めない、愛すべきアベちゃんの本領発揮である。阿部寛はこうでなきゃ!と思わせる適役ぶりだ。
阿部寛はミュージシャン役の経験はなく、私生活でもドラムはおろか楽器に触ったこともないという。それは脇役の清野菜名、高杉真宙も同じこと。にもかかわらず、撮影時には合同演奏ができるまでの腕前になっていたそう。俳優というのは、クランクイン前から既に役を演じているのだ。どれだけの努力があったことだろうと想像するだに胸が熱くなる。
捜査第一課の元部下、磯村勇斗、同僚の六平直政、ミュージシャン経験のある渋川清彦、音楽隊長の酒向 芳など、ベテラン・若手入り混じってのアンサンブル演技が見事である。また、音楽隊員も交通課や自動車警ら隊、交通機動隊といった本職と兼務体制なのだということを初めて知った。オールロケの撮影地は、豊橋市や豊川市、蒲郡市だから、差し詰め「愛知県警音楽隊」か。ローカル色や、場面に合わせた演奏曲の選曲も良い。
俳優陣、スタッフが頑張った労作、健闘作である点は認めるが、『ミッドナイトスワン』の内田英治監督にしては演出及び人物造形に冴えが観られない。音楽隊に光を当てたことに意義があり、カメラアングル、画角の構成は鮮やかだった。
(大瀧幸恵)
2022年製作/119分/G/日本
製作幹事・配給:ギャガ
制作プロダクション:アークエンタテインメント
©2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/ongakutai/
★2022年8月26日(金)より、全国公開
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