監督・脚本:片岡翔
出演:南沙良 大西流星(なにわ男子) 桜井ユキ 渡辺さくら 桜木梨奈 稲川実代子 二ノ宮隆太郎 玉木宏
心理療法室を営む窪司朗の娘である花はかつて一家で交通事故に遭い、司朗は脚に障害が残り、母は植物状態に、妹は顔に火傷を負った。その事故で心に傷を負った花のもとに、自身の母の心神喪失の原因を探る少年・四井純が訪れる。花は純と次第に心を通わせていくが、ある日突然、司朗が 5 年間の植物状態から目を覚ました母を連れて家に帰ってくる。司朗は「奇跡が起きた」と久しぶりの家族団らんを喜ぶが、花は違和感を覚える。「この人、お母さんじゃないー」。
『嘘を愛する女』『哀愁しんでれら』などの独創作を生み出してきたオリジナル企画作品コンテスト、TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM は、米国のスタジオA24のような存在たり得るか?『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』のアリ・アスター監督に影響を受けたと思しき作風である。
これまでに輩出された映画の中でも、本作は不穏度が高い。”失われた家族”、”擬似家族”的主題の取り扱い注意点を、片岡翔監督は知り尽くしているようだ。第一稿から数度の改訂を経て4年の熟成をみた脚本に、Jホラーの要素が加味された。
リアルな日本家屋を舞台にした美術・造形ワークが光る。薄い障子から射し込む光線は、儚げなヒロインを照らし出すには十分の光量だ。安定した低いカメラアングルが、欄間や木製天井を捉え、圧迫感を示す。飾り絵は家族の趣向を不気味に表している。室内のライティングも効果的である。
工夫を凝らした意匠に、リフレインされるピアノ曲が被さると、片岡監督が狙った世界観が出来上がる。
監督がオマージュしたかは不明だが、ジョーダン・ピール監督作『アス』との符合を感じ取った。『アス』で顔をマスクで覆う息子ジェイソンは『13日の金曜日』から。一方、本作の次女・窪月が被っているマスクは、もはや日本人のメンタリティ(?)とも言うべき『犬神家の一族』に登場する犬神佐清へのオマージュだろう。
そして、重要なアイテムとある兎。本作では無垢の象徴として描かれている。『アス』に於ける兎は、ルイス・キャロルの小説「鏡の国のアリス」との符合ではないだろうか?兎は実験動物の代表。無垢で儚く再生を試せる含意があるのかもしれない。因みに、欧米では兎をイースター、「復活祭」の象徴としている点も興味深い。
主要な役に抜擢された若手俳優の南沙良と、なにわ男子の大西流星。南は憂いのある美少女ぶり、諦観と眼力を放つ大西とも健闘している。21世紀生まれ(!)が今後の邦画界を先進して行くのだろう。
キーとなる父親役の玉木宏は、絵になる俳優だ。端正な佇まい、柔和な笑顔に潜む妖しさ、狂気性が、湿度の高いJホラーに調和している。
家族という小さい単位の幸せを追い求めるダーク・ファンタジー。『きいろいゾウ』『町田くんの世界』『ノイズ』など、脚本家としての実績を積んでいる片岡監督だが、絵造りの丁寧さにも観るべきものがある。今後はスリラーやミステリーなどの分野に於ける映像美を、グラマラスに展開する監督業にも勤しんでほしい。
(大瀧幸恵)
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
制作プロダクション:C&I エンタテインメント Lamp.
配給:ハピネットファントム・スタジオ
TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2017 準グランプリ作品企画
2022年/日本/100 分/シネマスコープ/5.1ch/PG12
© 2022「この子は邪悪」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/konokohajyaaku/
★2022年9月1日(木)より、新宿バルト 9 他にて全国公開
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