デリシュ! (原題:DELICIEUX)

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監督・脚本 :エリック・ベナール、ニコラ・ブークリエフ 
撮影:ジャン=マリー・ドルージュ 
音楽:クリストフ・ジュリアン 
プロデューサー:クリストフ・ロシニョン&フィリップ・ボエファール
出演:グレゴリー・ガドゥボワ、イザベル・カレ、バンジャマン・ラベルネ、ギヨーム・ドゥ・トンケデック

1789 年、フランス革命前夜。誇り高い宮廷料理人のマンスロンは、公爵主催の食事会で渾身の料理を振る舞う。しかし、自慢の創作料理「デリシュ」にジャガイモを使ったことが貴族たちの反感を買い、公爵から解雇されてしまう。失意を抱えたマンスロンは息子を連れて実家に戻る。ある日、料理を学びたいという謎めいた女性ルイーズが現れる。弟子は不要と断り続けるが、熱意に押されて彼女の希望を受け入れるのだった。やがて、マンスロンは美味しい料理を作る喜びを再発見していく。そして、ルイーズの助けとの息子の協力を得て、世界で初めて一般人のために開かれたレストランを開く。店はたちまち評判となり、公爵にその存在を知られてしまう…。

1789年…、世界史を学べば忘れ得ぬ年だ。革命前夜、パリ郊外では食の革命が蜂起しつつあった。美味しさを知る喜びと庶民の勝利に快哉を叫びたくなる秀作!当時、料理長は城の主に”仕える”者。主が望む品以外を提供してはならぬ、とされてきた。本作の主人公マンスロンが、自身のオリジナルな一品を出したことは不服従の罪に当たるのだ。その一品こそがタイトルにもなっている”デリシュ”。澱粉子などを混ぜた生地と、馬鈴薯にトリュフをスライスして焼き上げた濃厚な焼菓子は、エリック・ベナール監督の考案でもあったという。

教会が政治権力の中枢にいた18世紀、食の覇権に於いても支配力は絶大だった。聖職者、貴族とも”天国の食べ物”を信じていた。天に近ければ近いほど、それは神聖な存在。つまり空を飛ぶ鳩は完璧、地面に近い牛は少々劣る食材、地中にある馬鈴薯やトリュフは悪魔の産物と考えられていたそうだ。栄養価などの概念は二の次だったのだろう。

冒頭、公爵の城で開かれる食事会での「講評」。目も眩む程の豪奢な品々を前にして、最も辛辣にディスるのが神父だったことからも分かる。
「このパイは興醒めだった。言われたものだけ作ればいい。無用の茸に馬鈴薯?我々をドイツ人だと?」
当時、地中にある作物はハンセン病など病の原因になると教会が断定していた。
「危険だし不味くて醜悪。彩りに欠ける。食べられはするが野暮ったい」
などなど周りの客も迎合して言いたい放題。公爵の出世を祈った渾身の料理を貶され、誇り高いマンスロンは謝罪せずに城を去る。

これが世界初「庶民のためのレストラン」を開くきっかけとなるのだ。料理人を継がず、読書好きで社会情勢に興味を持つマンスロンの息子が隠れたキーパーソンとして配置されているのが面白い。進取の気性があり、革命の気運を父よりも肌で感じ取っていた。
「ルソーは自然に還れと提唱したよ」
「諦めないで父さん。いつか空を飛ぶ日が来る」
「公爵は父さんの気が変わるまで動かないって 」
「食糧暴動を鎮め、議員の席を蹴ったミラボー は高潔だね」
「旅籠の前に石盤のメニューを出そうよ!」
「公爵は父さんを侮辱した男だ。ヤツのためじゃない」
「パリの金持ち相手じゃない店を。 父さんなら歴史を変えられる!栄養を摂れば人類は考え、進歩できる。値段を変えれば誰でも食べられるよ」
「人は飢えてる。神のことは忘れて。自由に作れるんだ。世界は変わってる! 」
様々な局面で、息子は響く言葉を投げかけ、父の背中を押す。

本作の魅力は、圧倒的な映像美である。時代考証に基づいた豪奢極まれるテーブル(真っ赤なザリガニタワー!)、森の素朴な素材が並んだ調理台も静物画のように美しい。枯葉がワンカットのまま冬木立を迎え、粉雪が空を舞い、落ちて小麦粉に重なる抒情性。ワンカット長回しで調理場の喧騒を描く臨場感。室内の光源は蝋燭と焔が燃える暖炉だけ。額縁のように切り取られた窓からはフランスの豊かな森が覗く。
撮影はパトリス・ルコント監督作を多く手がけたジャン=マリー・ドルージュ。見事な達成である。

同時代の畝りを、敢えて騒乱の場面なしでフランス革命の息吹を感じさせた巧みさに唸った。晩夏、誰もが幸せになること請け合いのお薦め作だ。
(大瀧幸恵)


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2020/フランス・ベルギー/フランス語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/112分
配給:彩プロ
©︎2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS
公式サイト:https://delicieux.ayapro.ne.jp/
★2022年9月2日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国にて公開


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