グッバイ・クルエル・ワールド

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監督 :大森立嗣
脚本 :高田亮
撮影: 辻智彦
出演:西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和

元暴力団員の安西(西島秀俊)は萩原(斎藤工)、美流(玉城ティナ)、浜田(三浦友和)と共にヤクザの資金洗浄現場から金を強奪するため、互いの素性を知らないまま、とあるラブホテルに向かう。その後、彼らのもくろみにヤクザや警察、政治家といったくせ者たちが次々と介入し、金を巡るバトルに発展する。

全員ワル!…と思いきや、意外にハートフルな場面もあったりして…。起伏に富んだ映画だ。ボビー・ウーマックの「What Is This」に始まり、ウィルソン・ピケット「Back In Your Arms」、マージー・ジョセフ「Let’s Stay Together」に痺れ、邦画離れしたファンキーなノリが、ソウルミュージックファンには嬉しいオープニング♪

クールな勢いで強奪場面に突入。
「こんな派手な!目立つ車借りやがって!」
確かに、近ごろ見かけない旧型フォード・サンダーバード。これはカーチェイスもあり?期待するも…なかった(笑)。

西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和、片岡礼子、螢雪次朗、モロ師岡、前田旺志郎、青木柚、奥田瑛二、鶴見辰吾という布陣。監督は『MOTHER マザー』『星の子』など最近作でも攻めまくりの大森立嗣。今年は『死刑にいたる病』が好評だった高田亮の脚本。

つまり、オールスター映画の本作は、錚々たるA級の座組みながら、B級作品精神が活かされた快作なのだ。コンプライアンスの縛りから解放されたように、鳴り響く銃声。善男善女にも容赦はない。目についた”動くもの”は全て殺る。血飛沫が飛び散る。女だからと手加減なし。徹底した“容赦の無さ“に慄くが、実際のヤクザとはこれくらい冷酷非道なのだろう。綺麗ごとは通用しないのだ、と納得させる説得力を持つ、まさに狂気の世界。

狂犬の如きヤミ金業者・斎藤工から、「ジジィ黙れ!」と罵倒されまくる説教好きの元左翼崩れには三浦友和。その手下の前田旺志郎、若林時英、青木柚。ヤクザと黒い繋がりを持つ刑事役の大森南朋。お金が欲しいあまり、強奪事件に加担する風俗嬢に玉城ティナ。ヤクザ組織の元締めだった西島秀俊。裏仕事の仕入れに精を出すモロ師岡。不気味な”大物オーラ”を放つ奥田瑛二、鶴見辰吾。唯一、浮遊感を醸す宮沢氷魚ら、濃すぎるメンバーばかりが登場する。

短いショットが続いた後は、遠景からのワンカット長回し撮影。緩急のリズムが活きている。暗色に支配されたノワール風を貫く撮影は、若松孝二監督作品が多い辻智彦。登場人物たちの暴力性と爆発力、やるせなさを描出した映像が残像となる。

微かな光、希望にすがろうとする元ヤクザを打ち砕く”世間”の非情さは、既視感に満ちて凡庸だった『ヤクザと家族 The Family』より、よほどリアルに伝わってくる。タイトル通り、残忍、無慈悲、非情な(クルエル)世界におさらばしたくとも、それを受け容れぬ社会。どちらが非道なのか、分からなくなってくるパラドックスが主題だろう。

ヤクザを美化し擁護するわけでもなく、やり切れない思いの発露を、危険なビジュアルとして現出した大森立嗣の達成である。
(大瀧幸恵)


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製作幹事・制作プロダクション:スタイルジャム
製作幹事・制作プロダクション・配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C) 2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/gcw/
★2022年9月9日(金)より、全国公開

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