私を判ってくれない

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監督・脚本・編集:近藤有希 水落拓平
プロデューサー:小楠雄士
出演:平岡亜紀 花島希美 鈴木卓爾 今井隆文 西元麻子

3年前、城子(平岡亜紀)は、鹿児島県の長島町が舞台の映画で主演としてデビューするはずだったが、制作は頓挫し彼女は姿を消す。映画制作に出資した長島町の住民の中には、いまだに城子を恨んでいる人もいた。あるとき、この町で家族と暮らしてきた由記乃(花島希美)のもとに、幼なじみの城子が突然現れ、再び映画を撮ると言い出したことから、由記乃の周りで小さな事件が起き始める。

「鹿児島県 長島町に再び映画を」という情熱から生まれた本作。長島町についての知見はなかったが、茜色に染まる美しい空と大海原を観ていたら、1作目の『夕陽のあと』も長島町が舞台だったことを思い出した。前作は里子と特別養子縁組を目指す島の主婦と、実母として子どもを取り戻しにやってきたたい”母性”を巡る2人の女の物語だった。

今回は、島に帰ってきた女と、島から出たことのない女。対照的な2人の独身女性を通し、人生に於ける局面を迎えた際の人間ドラマ。男女2人の監督によって2つの視点から撮ったという試みが面白い。前半と後半で、ほぼ同じ場面、同じ順序で展開するのに、全く異なる2本の映画を観ているようだ。時空間を共有しながら、別の世界に生きている2人…。見える風景、感じる肌触りも異なるだろう。当事者にとっては、どちらも真実なのだ。

海が見える坂道を歩くキャリーバッグを抱えた女。洒落た帽子に夏色の服。明らかに島の風土からは浮いている。3年ぶりに故郷へ帰ってきたのに、どこへ行っても歓迎されず、罵倒すら受ける城子(ジョウコ)。島民の反撥をバネにするかのように、太い神経で「島移住」を主張する。役場職員がホテルを手配しようとするも
「お金ない!」
職員の厚意で自宅を提供することに。
「エアコン点かないんだけど!」
「狭いの我慢できるから」
「あ、魚は嫌いなんで」
言いたい放題である。

一方、城子と同級生の由記乃32歳。実家暮らしのため、父が連れてきた城子と暮らすことになる。殆ど自分の意見を表明せず、結婚する気もない娘に、母はイラついている。
「少しは城子さんを見習ってほしいわね」
丹念に描かれる2人の人物造形。同時に、噂話が瞬時に広がったり、城子を追い出そうとする勢力が台頭するなど、島社会の息苦しさ、生き辛さもリアル感満載に現出する。

が、由記乃は情緒が安定しているように見える。自身の生活に満足しているのだ。エキセントリックな城子は、やりたい放題に見せながら、感情を持て余す。”ここではないどこか”に自分の居場所を探しつつ、もがく状況が分かりやすく伝わってくる。両女優とも適役だ。共感必至。

人物描写と同等に魅力的なのは、長島町の自然環境である。山頂に位置する見晴らしの良いお寺。黒之瀬戸海峡を臨み、海を隔てれば隣には熊本県天草市が並ぶ。真っ青な空と海、白波が美しい。敢えて観光パンフレット風に寄せず、ストーリーの流れに添った必然性ある場面に絞った点が好感度高い。
変哲のない日常生活、身近な材料を用いた話法は、世知辛い時代に小さな望みを掬い取る心根の優しい映画である。
(大瀧幸恵)


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2022年製作/100分/G/日本
配給:フルモテルモ
(C) 私を判ってくれない
公式サイト:https://nobody-getsme.com/
★2022年9月9日(金)より、池袋シネマ・ロサ他にて全国公開

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