<ROMAN PORNO NOW> 手

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監督:松居大悟
原作:山崎ナオコーラ「手」(『お父さん大好き』文春文庫)
出演:福永朱梨、金子大地 ほか

中年男性を観察し、写真を撮ってはコレクションするのが趣味のさわ子(福永朱梨)。これまでの交際相手は年上ばかりだったが、自分の父親とはうまく接することができず、気まずい関係が続いていた。そんな中、同年代の同僚・森(金子大地)と親しくなるにつれ、彼女の心境に変化が表れ始める。

さわ子20歳。バーにいると、
「隣のお客様からです」
親しげに話しかけてくるおじさん。”制服を脱いだ頃から周りの反応が変わった。おじさん。おじさんは家と外の顔が違う。社会のおじさんと生き抜く術を知った”
さわ子の独白は続く。料亭でおじさんと膳を囲むさわ子。
「生の野球、連れてって貰ったのなんて初めてですよぉ〜」
おじさんあしらいが一段と上達しているさわ子。”おじさんは若い女に弱い。二日酔いのおじさん。お弁当食べてるおじさん。なんかいいことあったのかな?笑ってるおじさん、可愛い”。細かなショットの連発、矢継ぎ早に、あんなおじさん、こんなおじさんたちがテンポよく紹介される。おじさん観察はどこまで続くのか…。

さわ子25歳。『手』のタイトル。

「日活ロマンポルノ」の歴史も半世紀。昭和〜平成を駆け抜け、令和の「今」を切り取った新企画<ROMAN PORNO NOW>の第一弾が本作である。思い起こせば、「ワタシ、〇〇なんですぅ〜」のフレーズで知られる宇能鴻一郎原作ものシリーズに見られる”昭和型”とは、出だしから別世界の様相。隔世の感がある。共通するのは、”10分に1回の濡れ場、製作日数8日”という条件くらいだ。

『アフロ田中』でデビュー後、『アズミ・ハルコは行方不明』『アイスと雨音』『君が君で君だ』『くれなずめ』など順調なキャリアを築き、今年は『ちょっと思い出しただけ』を発表した松居大悟監督。昭和60年生まれながら、自我は明らかに平成時代に培われたものだろう。本作を含め、一連作品は湿度が抜かれている。同じロマンポルノでも、『団地妻シリーズ』『一条さゆり 濡れた欲情』『白い指の戯れ』などの名作群に観られた湿り気の多い官能とは真逆に位置する。
2016年のプロジェクト「ロマンポルノ・リブート」5作品には、まだ昭和の残り香があった。

日活ロマンポルノがスタートした昭和46年(1971年)当時は、上映映画館の前を通るのもはばかられたほど、女子には縁遠い存在だった。実際、レイプシーンなど女子の尊厳を踏みにじったような表現があったことは確かだ。本作の企画時、女性が観ても嫌悪感を抱かない描写を心がけたという。考えてみれば、原作は山崎ナオコーラだし、プロデューサー、脚本家も女性なのだ。性愛が日常生活の延長線にある如く、自然な描出には違和を覚えなかった。

さわ子と父の距離感が本作のキーワードになる。父を意識するがあまり疎遠→疎遠だから他所のおじさんに目が向く→おじさんに父を求める→いつか父に還る…。さわ子が作るスクラップブック「おじさんコレクション」は、父の存在なくしては有り得ない。父と交わすべき交愛との代償行為なのだ。
男である松居監督の、娘と父の愛憎関係を洞察する深度に唸った。瑞々しい表現が横溢する令和の<ROMAN PORNO NOW>である。
(大瀧幸恵)


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2022年製作/99分/R18+/日本
配給:日活
(C) 2022 日活
公式サイト:https://www.nikkatsu-romanporno.com/rpnow/
★2022年9月16日(金)より、全国順次公開

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