マイ・ブロークン・マリコ

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監督:タナダユキ
脚本:向井康介 タナダユキ
音楽:加藤久貴
原作:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』(BRIDGE COMICS/KADOKAWA 刊)
音楽:加藤久貴
エンディングテーマ:The ピーズ
出演:永野芽郁 奈緒 窪田正孝 尾美としのり 吉田羊

鬱屈した日々を送る OL・シイノトモヨは、テレビのニュースで親友・イカガワマリコが亡くなったことを知る。学生時代から父親に虐待を受けていたマリコのために何かできることはないか考えたシイノは、マリコの魂を救うために、その遺骨を奪うことを決心する。「刺し違えたってマリコの遺骨はあたしが連れて行く!」。マリコの実家から遺骨を強奪、逃走したシイノは、マリコの遺骨を抱いてふたりで旅に出ることに。マリコとの思い出を胸にシイノが向かった先は・・・

近年のタナダユキ監督作品には、死の観念が張り付いているようだ。 主人公が抱える喪失を”生きる力”に変える展開は、恩師の遺骨を持って歩く『浜の朝日の嘘つきどもと』の茂木莉子との類似点が観られる。茂木莉子も本作のシイノも”残された者”として重い命題を負わされる。2人とも喪失感を内省し逡巡したりはしない。行動に次ぐ行動で、それを埋め合わせ、逝った者に示すのだ。監督が原作コミックを読むや否や、すぐ映画化したい!と思い立った理由は、その主題にあるのではないか。

『マイ・ブロークン・マリコ』は、マリコの死因を探す話ではない。現実描写と交差する回想シーンに、薄幸なマリコの逸話がこれでもかと説明される。マリコの儚げな笑顔。シイノはマリコの生き方に歯痒さを感じている。その歯がゆさこそマリコが歩んだ不遇の道を想像するには十分だ。

マリコの遺骨を盗んで飛び出すシイノが川に飛び込む瞬間にかき鳴らされるソリッドなギター音が印象的だ。シイノが意思と覚悟を決めた内心を見事に描出している。現実と衝突するかのように繰り返される記憶。映画の視座はシイノの主観と記憶を往来し、ギター音や風景など全てが独白の要素として響き合う設計になっている。マリコとシイノの友愛が、これ以上ないほどの純度で結晶化した証左だ。

泥に這いつくばる逞しさでシイノは旅を続ける。ご飯は平らげるし、お酒も飲む。力強さが潔い。マリコとの約束を果たすため、野宿までして旅する女子を永野芽郁が活写する。中学生の頃から煙草を吸い、ボーイッシュでヤサグレたシイノその人にしか見えない。クランクイン前から衣装であるドクターマーチンの靴を履き、足に慣らせていたという。まさに役を”生きている”。登場場面では、永野が発散する軽快さや生命力、明るいトーンが画面を支配する。

マリコ役の奈緒が、私生活でも永野芽郁と仲が良いということを知らずに、タナダ監督はキャスティングしたそうだ。どんな役でもするりと身を寄せる演技巧者の奈緒だが、『みをつくし料理帖』『君は永遠にそいつらより若い』に続き、不思議と女子同士の友情を描く役柄に親和性があるようだ。運命に抗えず、シイノにだけ本音を伝えられるマリコ。
「いい人なのに、なんで別れたの?」 シイノに彼氏と別れた理由を問われ、
「うぅん、なんかシイちゃんといる時みたいに話せないんだよね。いい人だから緊張しちゃって」
と、力弱く答えるシーンには2人の関係性、マリコの孤独さと繊細さが象徴されている。
中学生の頃からシイノへ頻繁に手紙を書いていたマリコ。その手紙は小道具が用意したものではなく、実際にカメラに映らないものまで奈緒自身が書いたという。2人の親密感は画面にそのまま反映し、和みと優しさを醸す。

敢えて感傷を排した幕切れ、エンディングテーマ曲の選択もタナダ監督の演出意図を汲み、誂えたような仕上がりだ。希望の予兆を示す永野の演技が、本作に相応しい。
(大瀧幸恵)


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2022年製作/85分/G/日本
製作:映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会(ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA/エキスプレス)
製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:エキスプレス
制作協力:ツインズ・ジャパン
配給:KADOKAWA
(C) 2022映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/mariko/
★2022年9月30日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

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