紅い服の少女 第一章 神隠し (原題:紅衣小女孩)
監督:チェン・ウェイハオ
脚本:チエン・シーケン
出演:アン・シュー(シェン・イージュン)、ホアン・ハー(ホー・ジーウェイ)
恋人同士のジーウェイとイージュン(アン・シュー)。不動産会社に勤務するジーウェイだったが、祖母がその友人に続いて失踪し、なぜか彼女のもとに突然カメラが送られてくる。そこにはハイキングを楽しむ老人と紅い服の少女が映っていた。やがてジーウェイまでもが消息を絶ってしまい、ラジオDJのイージュンは魔物の仕業ではないかと疑うようになる。
『第一章』の製作は、2015年。90年代の台湾で社会現象となるほど多くの都市伝説が流布した事実を基にしている。台湾発のホラーとして大ヒットしたため、2017年に続編『第二章』が作られた。以降、昨年、日本でも公開された『返校 言葉が消えた日』や『哭悲/THE SADNESS』、Netflix配信の『呪詛』など、台湾ホラーブームのきっかけとなった2本が同時公開となる。
監督は、1984年生まれのチェン・ウェイハオ。20代前半から映画製作活動を始めた新鋭だ。昨年の台湾映画年間興収第1位だった『君が最後の初恋』をプロデュースするなど、台湾映画界を牽引するヒットメーカーである。
素朴な木造住宅、都会化した地方都市、画面を横溢するのは湿気を帯びた気怠げな空気。伝統ジャンルを継承しつつ独自のスタイル築く。俳優たちの感情表現は控えめ、など邦画と共通する点が観られる台湾映画に親しみを持つ日本人は多いだろう。ウェイハオ監督も、エドワード・ヤン、侯孝賢監督ら先陣監督の作品を観て影響を受けてきたに違いない。
本作は「神隠し」にまつわる不審な事件が主題となっている。そのため、2大監督の作品に顕著だったユーモアや清新性は観られない。その代わり、山岳地帯を中心とした圧倒的な土俗性、怪奇現象の描写がイメージ豊かに表出される。何人もの人が忽然として消えてしまう。貼り出される行方不明者のチラシ。空虚感、喪失感の醸成は、謎を呼ぶ導入部として一級だ。
『第二章』に至っては、中盤以降、ほぼ暗闇の画面が続く。闇に目を慣らして注視するしかない。助けとなるのは、『第一章』から引き継がれる繊細で時に耳をつん裂くようなサウンド設計だ。犠牲者が襲われる際、木にめり込む、口から吐き出される数多の虫…といった怪奇表現は、『貞子シリーズ』に似たインパクトを齎す。災いを終結させるための儀式は、派手な爆竹を鳴らし、虎の着ぐるみを纏った男たちが舞い踊る。最初は何かのお祭りかと思ったほど、秘儀的な印象がない。国民性の違いなのだろう。
基本となる言い伝えは、台湾先住民族からの伝承「魔神仔(モーシンナア)」と呼ばれる子どもの霊である。「紅い服の少女」とは、男尊女卑の意識が根強い中華圏において、女児の出生が望まれず、日本は東北地方のこけし文化由来と同様、“間引き“されてきた歴史がある。本作でも、『第一章/第二章』を通し、「愛されたかった」と叫ぶ少女のイメージが繰り返し登場する。女性、少女の妊娠、堕胎、生まれることを拒まれた胎児の逸話が度々挿入されるのは、台湾社会に未だ潜む女児への罪の意識を「紅い服の少女」として具現化しているのだ。
人々の心の暗部に巣食う原罪意識、立ち上る哀切さ、死への傾斜。おぞましさと聖なる感覚が共存する話法は、本作の独創性を高めている。エンターテインメントとして消費するだけのハリウッド製ホラーとは異なり、伝承文化へのリスペクトが有為だ。
魔神仔(紅い服の少女)は人を山へ誘う。そして伐採された樹木の数だけ人を浚い、山に植える。前述した“木に人がめり込む“怪奇現象は、愛に恵まれず生を受けなかった個人の恨みに加え、現代社会が行う地球環境への侵略といった原罪をも表象しているのだろう。ホラーとしてのストーリーテリングの背景に、こうした事情が潜んでいることを知れば、なお一層の深みが増すに違いない。ウェイハオ監督のような若い世代が、伝承文化を重視しつつ製作した点は興味深く、台湾映画界の底力を感じる。
(大瀧幸恵)
【第一章】2015/台湾/93 分/カラー/シネスコ/5.1ch/
紅い服の少女 第二章 真実 (原題:紅衣小女孩 2)
監督:チェン・ウェイハオ
脚本:チエン・シーケン
出演:レイニー・ヤン(リー・シューフェン)、アン・シュー(シェン・イージュン)、フランチェスカ・カオ(リン・メイホワ)、ホアン・ハー(ホー・ジーウェイ)
社会局家庭内暴力センターで働くリー(レイニー・ヤン)は、娘のヤーティンが妊娠していることを知り、中絶させようとする。一方のヤーティンはリーに反発し、学校に行ったきり帰宅せず、行方不明になってしまう。リーが学校の監視カメラを調べると、そこには紅い服の少女に連れ去られるヤーティンの映像が残されていた。
【第二章】2017/台湾/108 分/カラー/シネスコ/5.1ch/
配給:OSOREZONE/台湾映画社
配給協力:シンカ
©2015 The Tag-Along Co., Ltd ©2017 The Tag-Along Co., Ltd
公式サイト : https://taiwanfilm.net/akaifuku/
★2022年9月30日(金)より、第一章、第二章 シネマート新宿、シネマート心斎橋 他 一挙公開
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