もっと超越した所へ。

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監督 :山岸聖太
原作:月刊「根本宗子」第10号『もっと超越した所へ。』
脚本: 根本宗子
音楽:王舟
主題歌:aiko「果てしない二人」(ポニーキャニオン)
出演:前田敦子・岡崎真知子、菊池風磨・朝井怜人、伊藤万理華安西美和、オカモトレイジ・万城目泰造、黒川芽以・北川七瀬、三浦貴大・飯島慎太郎、趣里・櫻井鈴、千葉雄大・星川富

家に転がり込んできたストリーマーの怜人をつい養ってしまう衣装デザイナー・真知子。意味不明なノリで生きるフリーター・泰造と暮らすショップ店員・美和は泰造に絶大な信頼を置いている。プライドばかりが高く、承認欲求の塊である俳優の慎太郎のお気に入りである風俗嬢の七瀬は今日も淡々と仕事をこなす。父親の会社で働くボンボンで自己中心的な富と共同生活を送る元子役のタレント・鈴は世話をするのも楽しそう。それなりに幸せな日々を送っていた4組のカップルに訪れた、別れの危機…。ただ幸せになりたいだけなのに、今度の恋愛も失敗なのか? それぞれの”本音”と“過去の秘密”が明らかになる時、物語は予想外の方向へと疾走していく!

演劇に興味ある人なら、「ネモシュウ」で通じてしまうほど名の通った劇作家が根本宗子だ。パワフルな女優たちが活躍する書き下ろし芝居を何本も観てきた者にとって、初の映像化が本作というのは納得いく選択である。なにしろ、男女2人、4組のカップル、8人の登場人物たちの造形が彫刻のようにはっきりと刻まれているからだ。これは鮮やかにスクリーン映えしそうな題材。

舞台では、4つの部屋を4分割画面のように見せる構築的な手法が際立っていた。シアトリカルな演出が巧みだったが、映画ではポンポンと画面が移り変わる。編集のテンポの良さったらない!その素早い展開が、初めて観る人には、4組のカップルのキャラクター、置かれている背景などを把握するのに時間がかかるかもしれない。個人的にも舞台版を観たのは数年前なのですっかり忘れていた。が、いったん、頭に入ってしまえば、台詞や行動の一つ一つに、「こういうの、いそう!」「あるある!」が渦巻いて共感を呼ぶに違いない。

設定や台詞は舞台版とほぼ変化はない。最も大きい変化は演者だろう。映画界では「ネモシュウ」でお客が呼べるほど甘くはない。やはり知名度、人気プラス実力派の若手俳優を8人揃えるとなると、これは至難の業だ。本作に限っては、本人の実力か、脚本の力か、山岸聖太監督の演出力か…。8人とも適役の顔ぶれが揃った。

山岸監督は、ミュージシャンのPVや、「忘却のサチコ」、「有村架純の撮休」、「グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ」といったテレビ番組の印象が強かったせいか、スケールもテレビサイズになるのではという懸念があった。その点は、ほぼ室内劇である本作の特徴を、監督のキャリアが助けになったようだ。台詞の応酬、アップによる切り返し演出は、配信ドラマを見慣れている層には抵抗がないだろう。“本編だから““銀幕スクリーンだから“と気張らない良さが奏功している。

4組のカップルとも、しっかり目、冷静だけど色気もふんだんに併せ持つ女子と、クズでゲス、情けないのに誇りと矜持だけは高い男という組み合わせが面白い。前述した「こういうの、いそう!」「あるある!」感が迸り、今風に言えば「エモ散らかして」くれる。

それぞれが住む部屋の意匠は、映画美術スタッフの腕の見せどころだろう。舞台版よりも細部のディテールに凝ったセット造りが可能だからだ。推しの衣装を作る女の部屋は、こじんまりと内面の世界に閉じた少女っぽさ。
バイト・非正規カップルの部屋は、はっきり言って汚部屋だが、不思議な安定感と幸福感に満ちている。
元子役を経て、ゲイと暮らす綺麗好きの女。マンションはセレブ風、お洒落な空間は居心地が良さそうだ。
風俗嬢のお仕事ルームは、業務に必要な機能性があり、イイ感じのケバさが漂っている。
これら、個性が異なるセットをデザインし、造る側も演じる者も、演出するほうだって楽しかったに違いない。

8人の中で興味深いキャスティングなのは、最初に登場するメガネ女子(前田敦子)の部屋に押しかけ同居してしまうミュージシャン崩れのゲス男、菊池風磨である。ジャニーズ系としては、モテ役・王子さまではなく、こうしたクズ的な役を演じるのは画期的ではないか?アイドルの世界も多様性があっていい。イケメンであっても、擬似恋愛の対象を逸脱する役柄は爽快だ。

女優では、子役出身からバラエティ番組のぶっちゃけキャラへと変身し、業界を図太く生き延びる役の趣里が、育ちの良さと哀切、したたかさを醸し出して秀逸である。
『サマーフィルムにのって』の鮮やかさが忘れ難い伊藤万理華。「ネモシュウ」の舞台は経験済みとあって、伸び伸びと自身の軽みを活かし、且つセンシティブな面を表現した。女優としての覚悟が見られる。

形の異なる恋愛バトルは、中盤から思いもよらぬ畝利を見せていく。どこに連れて行かれるか分からない「ネモシュウ」ワールドを堪能してほしい。
(大瀧幸恵)


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2022年製作/119分/PG12/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
©2022『もっと超越した所へ。』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/mottochouetsu/
公式Twitter・Instagram:@mottochouetsumv #もっ超
★2022年10月14日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開。


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