クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~ (原題:Creation Stories)

16645186330980.jpg

監督:ニック・モラン(NICK MORAN)
脚本:アーヴィン・ウェルシュ&ディーン・キャヴァナー(IRVINE WELSH & DEAN CAVANAGH)
製作総指揮:ダニー・ボイル(DANNY BOYLE)
原作:CREATION STORIES: RIOTS, RAVES & RUNNING A LABEL
出演 :ユエン・ブレムナー(EWEN BREMNER) スーキー・ウォーターハウス(SUKI WATERHOUSE) ジェイソン・フレミング(JASON FLEMYNG) トーマス・ターグーズ (THOMAS TURGOOSE) マイケル・ソーチャ(MICHAEL SOCHA) メル・レイド(MEL RAIDO) ジェイソン・アイザックス(JASON ISSACS)

スコットランド出身のアラン・マッギーはロックスターを夢見ていたが、ロックを毛嫌いする保守的な父親と衝突を繰り返していた。やがて故郷を飛び出しロンドンで暮らし始めた彼は、あるきっかけから仲間と共にクリエイション・レコーズを設立する。レーベル運営は綱渡り状態だったが、アラン(ユエン・ブレムナー)は宣伝の才能を発揮して次々と人気バンドを輩出する。

のっけから流れるのは、プライマル・スクリーム の「ロックス」 。あのビートを刻んだリズムがアーカイブ映像をバックに響くのだから堪らない!
「売人、盗人、ジャンキー、ビッチ、やりまくろうぜ、ハニー!」
と呼び掛け、同性愛者や障害者まで手加減しない歌詞。”この映画、アシッド感満載につき...”と警告を発したくなる。アシッドに縁のない自分でも、観ているだけでハイになってしまいそうな危険と魅惑に満ちた映画だ。

アシッドを知らずともノリノリで楽しめるのは、プライマル・スクリーム、ジーザス&メリー・チェイン、オアシス、ティーンエイジ・ファンクラブ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどなど、ブリット・ポップの楽曲で埋め尽くされているからだ。本作はブリット・ポップ・ムーブメントの生みの親、クリエイション・レコーズを創設したアラン・マッギーの半生を描いている。

製作総指揮は、ダニー・ボイル。脚本は『トレインスポッティング』の原作者でもあるアーヴィン・ウェルシュ。主演は『トレインスポッティング』のスパッド役、ユエン・ブレムナーときては、それだけで『トレスポ』ファンはウズウズしてしまうだろう。監督は、やはり売人、盗人、ジャンキー臭がプンプンしていたガイ・リッチー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』の主演俳優ニック・モランである。

「アシッド・ハウス」や「エクスタシー」「フィルス」などを著したアーヴィン・ウェルシュは、‘80年代の英国グラスゴー及びクラブカルチャーシーンを知り尽くしている。アラン・マッギーの生育歴、環境、どんな音楽を聴き、どのようなことを考えていたか、お手のものであるかの如く筆が(キーが)走ったことだろう。監督のニック・モランも、目まぐるしい短カットを刻みつつ、回想とアラン・マッギーの現在地を往還し、快調に飛ばしまくる。

衰退していた英国ミュージックシーンを音楽業界をインディーズの力で音楽を蘇らせたマッギーを神格化する訳ではなく、むしろクズ男ぶりを強調しながら笑いを誘う。センセーションを巻き起こした‘80年代、そして‘90年代初頭のレイヴ・パーティブーム、ダンスシーンを開拓した世界で最も有力な音楽業界人を活写してみせた。スコットランド・グラスゴーの庶民階級で育った赤毛男の物語は、あまりに常識を逸脱し衝撃的に面白い。21世紀に振り返るからこそ興味深い寓話になっていると言える。

デヴィッド・ボウイを神と崇め、 妹の化粧品を借りてメイクしまくる少年アラン。テレビでは父にケネディ暗殺やエリザベス女王の戴冠式を報じる時代。 セックス・ピストルズを聴いて人生変わった!と実際に鳥肌が立つギミック映像が笑える。
「働け!化粧なんかするな!パンクはアメリカでホモのことだぞ!」
と保守的・マッチョを地で行く父に怒鳴られ、殴られる。「フリーメイソンへ入れ!」などと訳の分からぬことを言って息子を洗脳しようとしても諦めないアランは、バンドを組んでロンドンへ。

……が、パンクは終わっていたロンドン。メンバーとライブのチラシを配るも、
「国に帰りやがれ!」
と罵倒される始末。麻薬の巣窟のようなロンドンに恐れをなしたアラン。次第にバンドのマネージメントに活路を見出す。仲間とインディーズ・レーベルのクリエイション・レコーズを設立し、
「ジーザス&メリーチェインがブレイクする頃には、俺はグラスゴーじゃ大物になってたさ!」
本作は、音楽ライターの取材を受け、自身の半生について語る形式を採っている。
以降、プライマル・スクリームが英国ロックシーンを揺るがし、オアシスで世界のテッペンに立つことになるが、成功と蹉跌、プレッシャーからドラッグ漬けの生活は心身を蝕んで行く……。

グラスゴー訛りの赤毛ニイちゃんが語り継ぐ寓意を観たい人はぜひ劇場へ!
(大瀧幸恵)

16645186870781.jpg

2021年製作/110分/PG12/イギリス/英語
配給:ポニーキャニオン
(C) 2020 CREATION STORIES LTD ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:https://creation-stories.jp/
★2022年10月21日(金)より、全国公開

この記事へのコメント