天間荘の三姉妹

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監督 :北村龍平
脚本: 嶋田うれ葉
音楽: 松本晃彦
主題歌:Beautiful World 玉置浩二 feat. 絢香(日本コロムビア)
原作:髙橋ツトム「天間荘の三姉妹‒スカイハイ‒」(集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL 刊)
出演:のん・小川たまえ、門脇麦・天間かなえ、大島優子・天間のぞみ、高良健吾・魚堂一馬、山谷花純・芦崎優那、萩原利久・早乙女海斗、平山浩行・早乙女勝造、柳葉敏郎・魚堂源一、中村雅俊・宝来武、三田佳子・財前玲子、永瀬正敏・小川清志、寺島しのぶ・天間恵子、柴咲コウ・イズコ

天涯孤独な少女・小川たまえは交通事故で臨死状態になり、「もう一度現世に戻って生きる」か「天へと旅立つ」か自らの魂の決断が出来るまで天空の町・三ツ瀬にある旅館「天間荘」で過ごすことになる。そこでは初めて出会う腹違いの二人の姉が待っていた。家族の愛情や友情を知り成長していくたまえだったが、ある日三ツ瀬の町とそこに住む人びとのあまりに大きな秘密を告げられ、たまえは自らの決断を下すことになる。

天空と地上の間にある旅館“天間荘"。三ツ瀬という天空の街に送られた人々は、“地上に戻る”か“天上へ旅立つか”の判断に逡巡しながら天間荘で時間を過ごす。自らの魂と身体が未だ彷徨している狭間で、行く先を決断しなければならない。
本作はジャンルでいえば、紛うことなきSFに入るはずだ。が、ビジュアル面に於いてはファンタジー臭はきれいに排除され、限りなく現代に近い空気感で描写されるところが面白い。如何にもなファンタジー映画を慣れた目には新鮮に映る。特殊な視覚効果やギミック、スペクタクル、CGに一切頼ることなく有機的且つナチュラルテイストを齎し出した。異世界という違和感がない。狭間と地上は地続きなのだ、との主訴だろうか。

ハリウッドを拠点に活躍する北村龍平監督が、こうした話法を選択したことが興味深い。米国生活や映画製作に於ける反動なのかもしれない。小樽に現存する築150年余の歴史的建造物である老舗旅館を天間荘に見立てた。この旅館の佇まい、意匠が素晴らしい。豊かな瓦屋根、望楼(遠くを見渡すための櫓)もあり、石狩湾を見下ろす平磯岬の高台に立ち、澄み切った大海原と青空、小樽の全景が一望できるのだ。

冒頭、天間荘の各部屋を縫うように玄関まで流動するカメラに注目されたい。この建造物を慈しむ監督・スタッフの意図が伝わってくる導入部だ。地上から到着した三女のたまえは、
「海を見たことがないの!」
と絶景に見蕩れる。 たまえは未だ自身が臨死であると理解していないのだ。養護施設で育ち、定時制高校に行きながらアルバイト中トラック轢かれ、天間荘へ導かれた。たまえと腹違いの長女・若女将、次女が興奮した面持ちで迎えるも、
「温泉付き?こんな豪華な旅館、初めて!」
はしゃぐたまえに、2人の姉は心の声で、
「たまえには生き直して欲しい。私たちは戻れない地上へ...」
と願うところでタイトルが表示される。鮮やかな幕開けだ。三姉妹の名前が、"のぞみ かなえ たまえ"と繋がっているのが可笑しい。

天間荘には、長期滞在しているサングラスをかけた老婦人役の三田佳子、のぞみと かなえの母であり、たまえには義母に当たるヤサグレて酒臭い恵子には寺島しのぶが扮する。両女優の存在感、表現の力強さは圧倒的だ。一日の長がある。また、出番は少ないが地上と天界の繋ぎ役を演じた柴咲コウが、ミステリアスな魅力を放って光る。

原作者の髙橋ツトムは、当初からのんをイメージして、たまえを造形したそうだ。脚本も、のんに当て書きすべく肉付けされただけあり、これ以上ない程の適役。幸薄い出自ながら明るく天真爛漫、誰からも愛されるキャラクターを演じて出色である。熱演型ではなく、役にするりと身を寄せる稀少な女優だ。

さて、本作は東日本大震災を抜きには語れない。多くの被災者を出し、未だに行方不明者がいるという宮城県女川町を三ツ瀬の舞台にし、死者への鎮魂がテーマとなっている。女川町に思い入れがある脚本の嶋田うれ葉。だが、今の女川町には震災前の街並みは殆ど残っていなかった。地形の似た伊豆半島でロケしたという。死者を慈しむ想いはリリシズムと溶け合い、映画に安らぎを与える。
北村監督は久々の邦画製作で何かしら制約があったのか、全4巻の長尺原作を2時間強に纏める作業が困難だったせいか、いつもと異なり縮こまった感がある点が惜しい。
(大瀧幸恵)


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2021 /日本 /150分/カラー/シネマスコープ/ 5.1ch
配給:東映
制作プロダクション:ジェンコ
©2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
公式サイト:https://tenmasou.com/
★2022年10月28日(金)より全国にて公開

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