ノベンバー (原題:NOVEMBER)

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脚本・監督:ライナー・サルネ
撮影監督:マート・タニエル セット・デザイナー :ヤーグ・ルーメット、マティス・マエストゥ
編集:ヤロスラフ・カミンスキー
サウンド・デザイナー :マルコ・フェルマース
作曲家:ジャカシェク プロデューサー:カトリン・キッサ
出演:レア・レスト、ヨルゲン・リイイク、ジェッテ・ローナ・ヘルマーニス、アルヴォ・ククマギ、ディーター・ラーザー

月の雫の霜が降り始める雪待月の 11 月、「死者の日」を迎えるエストニアの寒村。戻ってきた死者は家族を訪ね、一緒に食事をしサウナに入る。精霊、人狼、疫病神が徘徊する中、貧しい村人たちは「使い魔クラット」を使役させ隣人から物を盗みながら、極寒の暗い冬をどう乗り切るか思い思いの行動をとる。農夫の娘リーナは村の青年ハンスに想いを寄せている。ハンスは領主のドイツ人男爵の娘に恋い焦がれる余り、森の中の十字路で悪魔と契約を結ぶ──。

19世紀のエストニア、とある寒村。氷を張った水面、凍てつく木々、 白銀に覆われた氷原を1匹の狼が彷徨う。身体の火照りを冷ますように、雪の中を転がる狼。"彼女"は何処へ向かうのか。白黒映像、不穏な空気を醸す劇伴……。 息を呑むほど幻想的、陰翳に富んだ幕開けだ。

神秘的な魅力に溢れる本作は、万霊節の日を描いている。万霊節とは、11月2日に亡くなった先祖を追憶する日。日本でいえば「お盆」だろう。10月31日のハロウィンや万霊節はキリスト教が普及する前の土着宗教の風習だそうだ。
土着信仰や伝承に人一倍興味がある者として固唾を飲んで見守っていると、何やら変てこなクリーチャーらしき物が現れた!妙に気の触る金属音を立てながら牛小屋に入り、宙ずりにした牛を運ぶ。みすぼらしい農家の玄関先にドサッと牛を落とす。出てきた老人にクリーチャーが叫ぶ。
「仕事をくれ!」
えぇ?!仕事って…。さっきまで神秘性そのものだったのに?よく見るとクリーチャーは納屋にあるような斧とか鎌といった安っぽい道具で形成されている。正直カッコよくはないし、可愛くもない。エイリアンのように異形の物特有の破壊力もない。しかも突然、暴れだして燃え盛る。その様子を見た農家の娘リーナが、
「綺麗だわ。クリスマスツリーみたい」
と呟いたところでタイトル。

何なのだろう?この不条理な展開は!この映画の世界観は狂っているのか?それとも理解できない自分がおかしいのか…?度肝を抜かれるプロローグだが、観たことのない景色と空気に触れ、想像力と好奇心は否応なしに掻き立てられる。

エストニアの万霊節には死者の魂が蘇る。漆黒の森の中から霧と共に現れる白装束の人々。若い男ハンスが呟く。
「僕の母もこの下に埋葬されているんだ」
やはり母を亡くしたリーナ。密かにハンスを恋している。劇伴は荘厳な調べを奏で、蝋燭だけが光源の映像美に魅入らされる。

朝が明けた男爵の豪邸。藁の上で寝ていた農家とは別世界の様相を呈している。石造りのゴシック様式の庭園、大階段。野卑なメイドは寝たきりの男爵夫人から服を盗む。ゴージャスなドレスに目を奪われるボロ服を着たリーナ。欲深いメイドは物々交換に応じない。
村民たちは田舎の素朴な人々ではなく、盗みや騙しで生計を立てているという造形だ。伝承といえど、お伽噺のように幸せな完結はない。リーナが恋するハンスは、男爵令嬢に一目惚れし、寝室にしのび込む。

四つ辻で悪魔と取引を交わすハンス。クラットと呼ばれるクリーチャーに魂を与える悪魔。ドイツ人の美女や山羊、豚に成りすまして迫りくる黒死病……。怪奇世界の幻想伝承は、悲恋物語として紡がれる。
聖なるキリスト像から狩り用の弾丸を造る村人。神をも畏れぬ異教信仰、摩訶不思議な超常現象が並在する。背徳と詩情美が入り混じる世界だ。

撮影監督のマート・タニエルは、ヴェネチアなど多くの国際映画祭での受賞経験を持つ。19世紀の生活様式を再現した暖炉の炎だけが光源の屋内は美しくもリアルな造形に満ち、驚くばかりだ。監督・脚本のライナー・サルネも原作者もエストニア生まれ。
外国人が宮崎駿作品を観たら、このように感じるのではないか?と思わせる異文化との心地好い邂逅は、"傑作を発見する喜び"を与えてくれるに違いない。
(大瀧幸恵)


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【2017年/ポーランド・オランダ・エストニア/B&W/115分/5.1ch/DCP/】
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ・サクセション
配給:クレプスキュール フィルム
(C) Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017
公式サイト:https://november.crepuscule-films.com/
★2022年10月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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