監督:マーク・ジョンストン、マーク・ライアン
脚本 : マーク・ジョンストン、マーク・ライアン、マイケル・カラム
プロデューサー:マーク・ジョンストン
撮影:マーク・ライアン
音楽:カリム・ドウアイディー
編集:マレク・ホスニー、マシュー・ハートマン
出演:セルジュ・ホシャール、マイケル・ブロードベント、ジャンシス・ロビンソン、エリザベス・ギルバート、ミシェル・ドゥ・ブストロス、サンドロ・サーデ、カリム・サーデ、ジェームス・パルジェ、ジョージ・サラ、ジャン=ピエール・サラ、ナジ・ブトロス、ジル・ブトロス、ロナルド・ホシャール、ガストン・ホシャール、ファウージ・イッサ、サミー・ゴスン、ラムジー・ゴスン、マイケル・カラムほか
古くから地中海の交易の中心のひとつであった中東の小国レバノン。度重なる戦争に翻弄されてきた国だが、実は知られざる世界最古のワイン産地の一つだ。レバノンワインの起源は5千年前とも一説には7千年前ともされる。本作は、世界的に高い評価を受けているシャトー・ミュザールの2代目で「レバノンワインの父」と評されているセルジュ・ホシャール他、戦争中もワインを作り続けてきた不屈のワインメーカーたちが登場する。戦争ではなく平和をもたらすために内戦中にワイン造りを始めた修道院の神父や、虐殺が起こった故郷の村で村の再起のためにワイナリーを続ける夫婦など、極限の状況でもワインを造り続けてきた11のワイナリーのワインメーカーたちが人生哲学や幸福に生きる秘訣を語る。レバノンワインに魅せられた『食べて、祈って、恋をして』の著者エリザベス・ギルバートや、ワイン界の著名人ジャンシス・ロビンソンらが、あなたをレバノンワインの世界へご招待する。
「ワインと人類、どちらが古いと思う?」
「葡萄の雫が発酵してワインになるんだ」
「ワインは人類より早くからあった。 遊牧民はワインを知って定住するようになったんだ」
「レバノンでは、紀元前500年にワインラックがあった。遺跡からはワインの産業跡地が見つかってる」
冒頭から知的好奇心を刺激するような証言が続く。それと同時に数多く引用される戦争のアーカイブ映像…。驚くべきことに、爆弾が降り注ぐ戦場でもワインは製造され続けてきた。なぜ、そのようなリスクをおかしてまで、人々はワインを作り続けるのか?何のために?何を求めて?その先に待っているものは?
アルコール類を一滴も嗜まない者でも、否応なく序盤から興味をひかれてしまう。人とワインの起源、歴史、文化、生活、政治情勢、気候変動、市場の変化、国際間競争、何よりワインを愛する人々の迸る熱量が様々な格言が登場する度、ワインが如何に人々の生活に根付いているか、ワインには人生を捧げる価値がある、人生そのものがワインなのではないか、と思わせてくれる(飲めないけど…)。
レバノン、シリア、イスラエル、イランといった戦禍に見舞われた諸国が登場する。登場するワインメーカー、考古学者、ワイン評論家、⼩説家、修道僧。彼らの宗教はユダヤ教、キリスト教、イスラム教とそれぞれだ。諍う国も宗教も超え、人々が共有する平和の結実として存在するのがワインなのだ。
本作では、度々と驚異の景色を映し出す。空撮による美しく雄大な葡萄畑が広がる向こう側は、 襲撃に晒され、戦闘機が頻繁に飛び交う危険区域。製作された2020年のレバノンは、経済破綻とパンデミックの⼆重苦に襲われた上、最大級の空爆も受けた。交通の要所にあるレバノンは輸送トラックでも容赦なくドローン攻撃に遭う。欧米メディアでは報じられない惨劇が此処にはある。内戦、襲撃の戦禍を経てもワインを造り続け、流通〜輸出するレバノン人の強い決意と意思には胸を突かれる。
が、登場するレバノン人たちは声高に使命を主張する訳ではない。いとも淡々とワイン愛を語る。
「ワインは実に偉⼤な師だ。⼈々の⼼を通わせるのだからね。⼼が通えば平和になる。戦争はしない」
「爆弾が降り注ぐなか気づいた。⼈⽣もゆっくり味わうべきだと」
映画の内容と同じくらい重要なのは、人物の本質が表出される語り口だ。 意識革命を迫られるほど、多くの格言が心に響くことだろう。
(大瀧幸恵)
配給:ユナイテッドピープル
95分/アメリカ/2020年/ドキュメンタリー
公式サイト:https://unitedpeople.jp/winewar/
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