監督・脚本:杉山 嘉一
プロデュース:川岡 大次郎
撮影:鳥居康剛
出演:松本享恭 前田亜季 小柴カリン 大原梓 松本健太 安居剣一郎 林田麻里 森下ひさえ 伊藤弘子 水野伶耶 細田安規 片岡優介 工藤千紘 齋藤舞佳 君島花奈(子役) 宇都野淳 中村誠 渡辺美知太郎 三上市朗 青木崇高(友情出演) 音尾琢真(特別出演)
那須塩原を流れる箒川でSUP(スタンドアップパドルボード)のアウトドアガイドをしている君島賢司は、幼い頃に父を亡くし母と2人で生きてきた。その母も病気で他界し1人きりになった彼は、那須塩原に移住してきたイラストレーターの森音葉と出会う。7年間心の赴くままに世界を旅してきた彼女の存在をきっかけに、賢司はただ流されるように生きてきた自分の人生に疑問を抱き始める。
地元愛に満ちた温かい映画だ。栃木県那須塩原市の自然美と温泉に惹かれ、何度も訪れている者にとっては、また行きたい!と否応なく旅情を誘われた。未踏の方でも、本作を観れば訪ねてみたくなるに違いない。
冒頭、空撮で示される色鮮やかな紅葉、蛇行しながら何処までも続く箒川(ほうきがわ)のせせらぎ、美しい渓谷美を空から、また川の水面から映し出す。胡弓と思われる静かな劇伴が流れ、悠久の時を感じさせる。青い空を見上げ、横たわる青年。那須塩原の魅力を伝えるには十分な出だしである。
数え切れないほど旅している土地なのに、「なすしおばら映画祭」が開かれていることは全く知らなかった。2019年からだそう。旅館にもお土産屋さん、街ブラをしていても、ポスター1枚見た覚えがない。今夏、訪ねた際も若い仲居さんたちから話を聞くことはなかった。
本作は、昨年の「なすしおばら映画祭」でクロージング上映され、劇場公開したいという熱い思いにより、クラウドファンディングで資金を集め、全国公開が決まったそうだ。
那須塩原の新たな景勝地や、トレンドになりそうなアウトドアスポーツが紹介される。サーフボードを大きくしたようなボードで立ち漕ぎするSUP(スタンドアップパドル)。主人公の青年は、このSUPのアウトドアガイドをしている。箒川の渓流を渡りながら自然と一体になれるSUPは、如何にも気持ちよさそう♪うっかり川に落ちても、ガイドは助けることはしない。自力で上り、弾みから立てるようになっている安全なスポーツなのだ。
終盤に描かれる箒川まで遡る沢登りシーンは、観ているだけでも困難な撮影だったことが分かる。足場の安定しない岩だらけの山道、水の豊かな河川だけに滑る危険もあったろう。重い機材を抱えて撮影するスタッフの苦労がしのばれる。その分、辿り着いた清流の源泉の美しさは心に沁みた。
が、本作は観光ガイド的な映画に留まらない。生まれてから那須塩原を出たことのない青年。地域を盛り上げようとする「若もの会」に集う若女将や跡継ぎたち。那須塩原に惹かれ、移住してきた新住民の中には、7年間世界100カ国以上を旅してきた者もいる。その他、都内からUターンで戻った同級生、都会に憧れる者。そんな若い世代を見守り、交流を促してくれる地元の大人たち。人々や自然との触れ合いを持つことで、それぞれが自分らしい生き方を見出していく。
「出たいと思ったことは?」
「好きだからここにいると思ってた。でも、流されているだけなのかな?」
「人と比べなくていいのよ」
「いる場所に満足出来ないから?」
「そこに何があるか。帰るのが旅なんだ。戻るべき場所ありきの旅なんだよ」
様々な言葉を通し、語り合いから方向性を探り進む若者たちが眩しい。
コロナ禍中の撮影で難しかったのかもしれないが、那須塩原を訪れる最大の動機である源泉かけ流し、優しい泉質の温泉をもっと紹介してほしかった(笑) 今夏は渓流沿いの客室掛け流しの温泉に癒されたばかりだから。
(大瀧幸恵)
2021 年/日本/ヴィスタ/5.1ch/105 分
製作 / 制作 株式会社コンセント 栃木県那須塩原市
配給:株式会社コンセント
配給協力:SDP
©Consent / Nasushiobara City
公式サイト:kawano-nagareni.com
★2022年11 月 11 日(金) より、フォーラム那須塩原にて先行上映
★2022年11 月 25 日(金) より、池袋シネマ・ロサ、シモキタ-エキマエ-シネマ K2 他にて全国順次公開
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