ナイトライド 時間は嗤う (原題 :NIGHTRIDE)

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監督:スティーヴン・フィングルトン 
脚本:ベン・コンウェイ
出演:モー・ダンフォード、ジョアナ・リベイロ、ジェラルド・ジョーダン

ドラッグディーラーのバッジ(モー・ダンフォード)は、大口の取引を最後に恋人ソフィアと共に裏社会から足を洗おうと決意。闇金のジョーから10万ポンドを借り、ウクライナ人プッシャーから50キロの麻薬を仕入れるが、弟分のミスから麻薬を積んだバンが何者かによって奪われ、買い手にも逃げられる。ジョーへの返済期限が迫る中、失った麻薬と新たな買い手を見つけ出そうと駆け回るバッジ。しかしジョーは、バッジが買い手を失ったのを知って、手下を差し向けていた。

カードを切りながら、ウクライナ語と思しき言葉を祈りのように発話する女。夜の寝室。間接照明の柔らかな光に照らされ、男が誓う。
「今度こそ足を洗うよ」
バッグを手に家を出る男。ドアを開けた瞬間から、ワンカット長回し97分の旅が始まる。

⼀夜の出来事を⾞中で交わされる電話の会話だけで紡ぐ物語というと、トム・ハーディが圧倒的な個性でスクリーンを占拠する『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』が想起されるだろう。通常、運転シーンのある映画では、トレーラーに俳優が乗った⾞の上部を積み、牽引しながら走行する。つまり、運転手は下におり、俳優は運転するフリをしながら演技に集中するのだ。『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』も同様な撮影を行った。

一方で本作や、オスカーの国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督作『ドライブ・マイ・カー』は、カメラが⾞内に固定され、俳優は実際に⾞を運転しながら、演技も⾏うことになる。非常に高度な演技力と運転技術、集中力を必要とされるため、安全配慮の点から避けたがる映画人が多い。
が、本作の監督スティーヴン・フィングルトンは、当初よりこの方式しか考えていなかったという。確かに、運転も同時に行うのは、俳優にとって負担が大きい。しかし、エンジン音や操作と一体になったような息遣い、ミラーを見る表情など、リアルさの度合いが格段に違う。『ドライブ・マイ・カー』の成功をみても、フィングルトン監督の判断が正しかったことが分かる。

ちなみに、使用された車は日本車。フィングルトン監督がエンジン⾳の静かな⾞を探し求めた結果、スバルの2006年製レガシィ・エステートが選ばれた。

主演のモー・ダンフォードは、周囲の道路状況に注意しつつ、運転操作しながら膨大な電話での会話劇をこなす。しかも、『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』のような高速道路ではなく一般道路だ。右折、左折、バックやUターンまで、カーアクションさながらである。綿密なリハーサルをしたとはいえ、どんな状況変化が起こるかは予測不可能。全て1人で対処しなければならないのだ。

作中の音は、全て実際に起きた音響を採り入れている。途中、パトカーのサイレンが聞こえ、警官に免許証や身分証の提示を求められる場面がある。観終わってから分かったことだが、これも本当の出来事だという!モー・ダンフォードは、役のまま検問を受けたのだ。画面上では冷静そのものに見えた。ダンフォードの超絶技巧に快哉だ。

撮影を敢行したのは、2020年ロックダウン下の北アイルランド、ベルファスト。人がいないのは好都合だったかもしれないが、治安の悪い地区だったそう。地元のヤンチャな若者たちが、撮影隊を狙って瓶を投げつける場面もあったとのこと。物語に没入している身には全く気付かなかった。

このように、ドキュメンタリーとも言えるほど、臨場感に富んだクライムストーリー。最後まで緊張感を失うことなく疾走する。見どころは多いが、アイルランド映画ファンには忘れ難い名優スティーヴン・レイ(昔はレアと表記していた)の出演が嬉しい。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』『マイケル・コリンズ』『プルートで朝⾷を』『グレタ GRETA』といった一連のニール・ジョーダン監督作品には欠かせない。『クライング・ゲーム』での、あの素敵な声は健在だ。
(大瀧幸恵)


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2021 年 / イギリス、フランス、アメリカ / 英語 /97 分 / カラー / スコープサイズ /
提供 : ミッドシップ、コムストック・グループ 
配給 : ミッドシップ
協力 : コムストック・グループ  
宣伝 : ポイント・セット
©2021 NIGHTRIDE SPV LTD
公式サイト:http://mid-ship.co.jp/nightride/
★2022年11月18日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー


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