シスター 夏のわかれ道 (原題:我的姐姐)

16682735488820.jpg

監督:イン・ルオシン 脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム

看護師として働きながら、医者になるため北京の大学院進学を目指すアン・ラン。ある日、疎遠だった両親が交通事故で亡くなり、会ったことのない6歳の弟・ズーハンが彼女の前に現れる。親戚から弟の養育を押し付けられたアン・ランは、仕方なくズーハンの面倒をみることに。ワガママばかりのズーハンに振り回されっぱなしのアン・ランだったが、幼い弟を思いやる気持ちが徐々に芽生え始める。

わずか4歳!…映画の善し悪しを見極める指標に、「子役が自然体か?ドラマに無理なく溶け込んでいるか?」が挙げられる。あくまで個人的な指標のため、卑近な点をお許し願いたい。その観点からみると本作は優れた映画だ。姉と歳の離れた弟が紡ぐ家族愛のドラマ。弟役(6歳の設定)の子が撮影当時4歳だったと知り、心底驚いた!4歳といえば丸っきりの子どもである。日本の幼稚園では年少さん?
両親の死を理解できず、「パパだ!」と追いかける。会いたいとグズるのも、姉に歯向かうのも当然だ。4歳の子に、どうやって複雑な心情を理解させ、姉を思いやるという豊かな表現に達するまで演技指導ができたのだろう?36歳の女流監督は、デビュー2作目にしていとも易々と達成して見せた。

中国では、特に女性から大きな共感を集め、全土で大ヒットしたというのも頷ける佳編だ。同じアジア系ながら、文化や風土、社会体制まで全く異なる中国と日本。本作に於いては、感情表現に最も違いが顕著に出たような気がする。
葬儀で泣き叫ぶ、男女とも殴り合いの喧嘩をする、といった激しい感情表現。抑制気味の小津安二郎作品とは真逆の世界だ。また、葬儀中に麻雀をやる光景も興味深い。四川省の一部に於ける風習だそう。結婚式で雀卓を囲む映画は観たことがあるが、故人を偲びながら賭け麻雀とは…。いやはや、文化の違いは面白い。

逆に、普遍性を感じたのは、家族・親類縁者との関係性、自立を目指す女子として優先すべきものは?といった悩ましい問題の数々。"男系男子"が家を継ぐことを是とする社会では、一人っ子政策が巻き起こす混乱は想像を絶する。本作で描かれるように、生まれても女の子だった場合、老後の面倒を見させるために、地元から出ることを阻む。個人の能力に則した芽を摘むばかりか、女の子に障害者のフリまでさせ、第二子を産む許可を得ようと策を弄する逸話は衝撃だ。

封建体制の中、地方の女の子は自尊感情を持てずに、自我が培われてしまうのだ。主人公である姉が彼氏からは、
「君は気が強い。同じような性格の人では難しいと思うよ」
と、暗に結婚を匂わされ、北京への進学を阻まれてしまう。
弟をさっさと養子に出してしまおうと面談を続け、縁組みが纏まりそうになれば、今度は親類縁者が横槍を入れて壊しにかかる。
これでは、北京に出て医師になりたい!という向学心や自立心に富んだ女子は、どう足掻いても高い理想を実現できない。なんと強固な壁が立ちはだかっていることか…。

自身の人生を生きられなかった伯母は、
「あんたのお父さんに全部譲ってきたのよ。ロシアで働いていた時も、弟の家に女の子ができたから手伝って、と実家に帰らされた。大学のロシア語学科に受かった時も、あんたの父さんに教育の機会を譲った。 女は希望を捨てろ、と言われてきたの。子どもの時だって弟だけ西瓜を食べてたわ。弟はあんたが育てるべきよ!」
と、姪に恨み辛みをぶちまける。が、
「あんたを同じに嵌めるわけには行かない。あんたは好きな道を行きな」
姪には未来へ羽ばたくよう促す。どんな中国社会体制の解説学術書よりも、伯母の体験が説得力を伴い、中国の有り様を物語る。脇役である伯母の心情変化はヒロインの気持ちと共振し、観客の涙を誘うのだ。

朝ご飯、幼稚園の送迎、やむなく仕事場へ連れていく姉…。姉弟の日常生活ぶりが丁寧に描かれる。暮らしを見ているからこそ、
「靴紐の結び方教えて。もう肉まん作ってとか言わないよ。 僕が嫌い?」
「養子に出したいからよ!」
「姉ちゃんと一緒にいたいよ!姉ちゃんしかいないんだ!」
姉弟の会話が胸に迫る。

正攻法の古風ともいえる演出話法ながら、丁寧に心情や行動を描写したイン・ルオシン監督には好感が持てる。敢えて姉弟の選択を明確にせず、観客に想像の余白を持たせたのも正解だ。
(大瀧幸恵)


16682736396121.jpg

2021年/中国語/127分/スコープ/カラー/5.1ch/
配給:松竹 
宣伝:ロングライド
(C)2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/sister/
★2022年11月25日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほかにて公開


この記事へのコメント